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諸星光一の昔話

 数年前……


「おーい、光一」

 灰原が、俺を呼んでいた。

「なんだよ、その呼び方。どっかのお茶みたいな呼び方しやがって。」

「いいじゃん。おまえ、あのお茶ばっか飲んでんだから」

「まぁ、そうだけどさぁ……」

 灰原とは毎回たわいもない話をしながら勉強していた。灰原は、俺とは大学は違うが、会計士予備校は一緒の大学生だった。会計士予備校は、いろいろなヤツが集まっている。灰原や俺のような大学生はむしろ若い部類に入っている。会社を辞めて一念発起をした人、ニートでやることがないから無理や両親にやらされている人などなどバックグランドが異なるのが、この受験生の特徴だったりする。

「そういや、答練どうだった」

「俺、全国20位」

 自慢げに俺は、灰原に自慢した。

「俺は、7位だよ〜」

 灰原は、俺よりも簿記ができた。俺もできるほうだとは思っていたが、灰原はその上を行った。

「悔しいなぁ、でも仕方ないか。それで、何がいいんだ」

 俺らは答練の点数が高いほうがジュースをおごることになっていた。今の所、10戦5勝5敗と五分ではあるものの、この11戦目で負けたため、また負け越しとなってしまった。先日ようやく勝敗の借金を返したというのに、また借金暮らしとなった。

「んじゃ、ブラックコーヒー」

 灰原はいつもブラックコーヒを飲んでいた。カフェイン中毒になってしまうんじゃないかと思うくらい飲み続けていた。

「そういやさ、またなんかあったね」

「あーあの事件?」

 最近、不正会計の事件が発覚してニュースになっていた。金額的にはそれほど大きくなかったが、会計士と会社がグルになっていたことが問題になっていた。

「本当、会計士ってこういうネガティブな話題でしかニュースにならないよね」

 灰原は、苦笑いをしながら言った。僕は、確かに、と同意した。会計士は、本当はもっともっと社会的に重要な舞台で活躍しているのだが、他の弁護士やら中小企業診断士らとは異なり、ほぼポジティブなニュースではお目にかかれない。民法でのドラマ化やアニメ化なんて絶対にされない存在である(たぶん、独立性の観観点だとは思うが)。

「でもさ、俺のゼミの先輩で会計士の人とかいるんだけど、社会的インフラとしてのプロ意識はすごく高かったよ。(俺らが、適切な財務報告を担保しているからとってもやりがいのある仕事だよ。)って言ってたし。」

 灰原は、鼻息を荒くしゃべていた。

「そうだな。俺らはまだ合格してないけど、立派なカッコイイ会計士になろうぜ。むしろ、ポジティブな話題を振り向きたくなるような会計士になろう」

 俺は、灰原に冷えたブラックの缶コーヒーを買って渡した。灰原は、サンキューといって、缶コーヒーを持って自習室に戻っていった。


 こんなことを毎日ずっと続けながら勉強をし続けた。無事本試験を終えると、俺と灰原は合格していた。事前に予備校の先生からも「君たちはまぁ、落ちないだろう」と言われて、図に乗っていたせいか、本番では実力を発揮できず、ギリギリの合格となってしまったが。しかし、本番で失敗するということはそれが実力、とも言えるのだが、なかなか認めがたい部分である。それでも、合格番号が掲示された時は人目をはばからず泣いた。灰原は、「気持ち悪いからやめろ」と冷静に俺を止めていた。


 お互いに同じ監査法人に就職した。

 そして、数年後、詳しいことは語りたくないが、俺は退職した。

 どんな会社でもある、仕事上のトラブルだ。嫌な先輩からの執拗ないじめ。よくわからない年功序列。これらの日本的慣行の企業に俺は馴染めなかった。カリスマ的な先輩に憧れたが、俺はそれ以外先輩にいじめられた。

「おまえはスタッフだろ?生意気なことを言うな。おまえは、調書整理をしていればいいんだ。スタッフなんだから、雑務はお前が全部やれ」

 となぜか、スタッフの先輩にスタッフなんだからと言われていた。

 近年の監査法人は、どれもグローバルファームと提携していて、職階体系や評価基準など外資系に近いものがあった。しかし、実情はまだまだ謎の年功序列の残る日本的な組織だったのだ。


 そして、俺は転職をした。大学時代に会計士以外にもなんかやってみたいと思い、教職免許を取っていた。どうせ「先生」と呼ばれる職につくわけだから本当に教職の方もとっておこうと考えたのだ。

 そんな能天気な考えが功を奏したのか、俺は高校教師になった。

 今、俺がしたいのは、頭は良くなくていい。ただ人の気持ちがわかる、人として尊敬のできる会計士を育てたい。いかんせん、あの業界は有名大学などあがりや家が裕福な家庭で育った人間が多く、プライドがやたら高い。プロフェッショナル意識が高いにことしたことはないと言えば聞こえはいいが、裏を返すと単なる傲慢であったりする。普通の会話もできない。

 俺は、あの業界を違う形で変えたかった。こんなプライドばかり高くて、自分のことばかりしか考えず、リスクを嫌って挑戦もしないような人間ばかり集まるようでは、会計業界、会計士業界は衰退するのではないかという危惧があったからだ。彼ら5人がすべて会計士になってくれるとは思わない。でも、きっと。素晴らしい職業会計人になってくれるはずだ。簿記は、将来的にはコンピューターがすべて処理してくれるようになるかもしれないが、その結果をもとにいろいろな判断をするのは人間である(その判断もコンピュータがやることも考えれるが、それすらコンピューターがやるのであれば人はいらないことになる)。

 また、明日も部活だ。彼らには、商業高校での生活を楽しんでほしいな。





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