先生、商業高校を語る
やはり、教室のドアはガタガタという音を立てながら開いた。誰が開けてもそういう仕様であるらしい。そんな顔を俺の周りの生徒はしていた。
俺は、教卓の上に出席簿を置いてから一呼吸置いて挨拶を始めた。
「みなさん、おはようございます。そして、ご入学おめでとうございます」
周りの生徒の顔は喜びに満ち溢れてキラキラした目をしている子が大半であったが、眠そうな奴が窓際に座っていた。入学式の話は「退屈」という言葉がぴったりだから仕方ないか。
「まぁ、堅い感じはこの辺にしとくわ。これから3年間、君たちの担任をする諸星光一だ。よろしくな」
拍手が入る。想定内。
「で、君たちはこれからこの学校で楽しい事や嬉しい事、辛い事悲しい事、色々なことを学んで成長していくと思います。いろいろ辛いこともあるかもしれないけど、その都度頑張っていこうじゃないか。先生は、なるべく味方になれるよう心がけますんで」
で、ここからが本題。
「ここからが、先生が一番言いたいことなんだが……どうして、みんなは、このご時世に商業高校なんて入ったんだい?良い大学に入って、大企業や公務員になって。恒久的な裕福な暮らしをしてほしいとご両親は願っていなかったのかい?個人的な意見だけど、商業高校に入った時点で、そういったレールからは外れていると思ってしまったんじゃないか。世間ではそう言われているぞ」
みんなの顔が暗くなっているのがわかった。ある生徒は、暗い顔をし、ある生徒は、少々怒りに満ち溢れていた。そして、ある生徒は、窓の外の桜を眺めていた。僕である。
「すまんすまん。半分冗談、半分本気だ。商業高校を選ぶということはリスクは高い。なぜなら、普通科の高校に大半の中学生が進むというのに、こんな少数派に君たちは入ったからだ。間違いなく、普通科に入って高学歴な大学を目指す道は険しくなっているリスクは高い。しかし、その分リターンは絶対でかいはずだ。少数派だから、多数派の連中にはない個性的で独創性で彼らよりもリターンを得るチャンスがあるはずだ。15歳そこらの君たちが、多数派の人たちとは違う少数派の道を選ぶことは並大抵の勇気じゃない。なぜなら、大人になると長いものに巻かれる汚い大人たちでいっぱいなんだ。まぁ、そのうちわかるさ」
気がつくと、目の前の彼らはぽかんとしているのがわかった。難しい話をしているつもりはなかったが、やはり難しかったのだろうか。
「まぁ、あれだ。俺はこれが言いたかった。俺は、君たちを卒業する頃までに立派な専門性を身につけた大人にしてやる。専門性はこれからの時代大きい武器になり君たちを支えるだろう。保障する。そして、最後は商業高校を選んで良かったと言わせたい。言わせたいのは俺の願望だけどな。まぁまぁ、3年間楽しくやろうじゃないか。ちなみに、俺の担当科目は簿記なんでよろしく。はい、じゃあ、ちょっと早いけど10分休憩。他のクラスの人はまだ、ホームルームやってるから、静かにトイレに行くんだぞ。走るなよ、そこの野球部っぽやつ!」
そういって、野球部っぽいやつに指をさして、俺はホームルームを終了した。少々の笑いとともに。
俺は、一旦職員室に資料を取りに戻った。