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夏休み1

 気がつけば、体育祭もとっくに終わり、梅雨も過ぎ、夏休みまであと一週間というところになっていた。

激動の簿記検定の追い込みも気がつけば、記憶の彼方である。

「イチロー、アイス食べたい」

 進は、僕にアイスをねだった。

「自分で買って来なよ」

 ごねる進を僕は、なだめた。

「嫌だよぉー。俺はイチローが買ったパピオを半分にして仲良く分け合って食べたいんだよ。それが、友情っていうものだろ」

 どうやら、進は暑さのあまり、その場を動きたくない様子であった。

 汗だくであった僕らは、うちわを扇ぎながら、放課後のグランドを部室から眺めていた。橋本と桜は、お互いをうちわで扇ぎあっていた。ゆるやかな風が彼女たちに当たるたびに、彼女たちの起伏に富んだ体のラインがブラウス越しに浮かんでいた。僕は、それは「見てはいけないものだ!」という天使のささやきに負け、僕はその姿をチラチラと見ていた。

「イチロー君」

 ぼけっとしている僕に、橋本が声をかけてきた。僕は、ハッとして、冷や汗が出た気がした。実際は、7月の暑さで、冷や汗なのかどうかは見当がつかなかったが。気がつけば、橋本は橋本と呼ぶようになり、桜は桜と呼ぶようになっていた。

「なに」

「アイス買ってきて」

「お前もか」


 夏休み目前になって気がついたのが、僕らはだいぶ仲良くなったということだ。

 鮎川も最初は、「僕は頭が良いんだ。君たちのようなバカとは一緒にしないでくれ」とプライドの高さの片鱗をチラチラと見せていたのだが、簿記検定合格発表あたりから僕らに近づいてきてくれるようになった。点数が一番低かったということは一因かもしれないが、自分より点数が高かったことが気になったらしいようだった。これは、妬みとかではなく、純粋に興味らしい。そういう意味では、鮎川に謙虚さというものが生まれたのかもしれない。

「イチロー」

 鮎川が話しかけてきた。

「アイスなら買いに行かないよ」

 僕は、ぶっきらぼうに鮎川が尋ねる前に答えてやった。やはり、図星だったらしく、「チッ」と小さく舌打ちをして、読んでいる小説の方に目をやった。

「あの……」

 桜が口を開いた。

「あたし、買ってきますよ。アイス」

 桜は、ゆっくりとした口調で言った。どうやら、疲弊している簿記部を気遣っての発言であった。進と鮎川は「マジ?」と嬉しそうに答えるものの、橋本の「こら!男子!」という言葉をきっかけに、結局、男3人で買いにいくはめになったのであった。


 男3人、高校より徒歩5分の青いコンビニに向かって歩いた。7月とはいえ、下旬の暑さは堪えた。頼んでもいないのに、体からは汗が噴き出し、シャツはビショビショに濡れた。頭からは、ダラダラと汗が重力に従順に滴りおちていた。

「いらっしゃいませ」

 店員さんの挨拶とともに、僕らはコンビニに入った。「生き返るー」と進は嬉しそうに、アイスコーナーへと走った。鮎川は、メガネをキリッと直して、アイスコーナーに向かった。僕は、ゆっくり、汗をぬぐいながらアイスコーナーに向かった。

「なぁ、橋本と桜は何アイスが好きなだろう」

 進は言った。

「橋本は、アイスクリームじゃないと嫌って言いそう」

「ああ、あれか。アイスミルクとかラクトアイスとかっている種類別の話だろ」

 鮎川は得意そうに言った。進は「それそれ」と言って、僕らは満場一致だった。橋本のために、アイスクリームと表記されているものを選ぶことにした。

「桜は……宇治金時とか。なんか和風なものが」

「わかる」

「わかる」

 またしても、進の意見に反対するものはいなかった。印象というものは、意外と似るものなのだろう。


 僕らは、60円のアイスバーを買って、女子たちには、アイスクリームと宇治金時という高めのアイスをかってあげた。進は、最後まで「お前と一緒にパピオを……」と言ったが、僕はいっぱい食べたかったので頑なに断ったのだった。


「おかえり」

 女性陣に優しく迎えられた僕らであったが、ここでびっくりする出来事が起きた。

「ああ!これわたしの好きな宇治金時!」

「あたし、アイスクリームじゃないとアイスは食べられないの言い忘れてたんですけど、わかってたんですね」


 僕らは、顔を揃えて「女性はよくわからない」といったのであった。




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