試験と結果
気づけば、簿記検定は今週末であった。
試験会場は、商業高校生特権なのか、母校南商業での受験であった。僕は、少し安堵した。よく分からない場所で受けるよりも馴染みの会場で受けられるからだ。
先生は、1週間前になると、口数は少なくなり、あまり言葉を言わなくなった。
「これからの1週間は、本番を想定しながら勉強しよう。過去問をただ、解くのではなく、この問題が来たらじっくり考えようとか、捨てようとか。全てが想定内に行くわけではないが、基本想定内でこなしていけば、本番焦ることはない。焦って頭が真っ白になるのは、想定外の連続に出くわした時だ。焦って、今までの勉強時間を無駄にしないこと。想定外すら想定内であれば、強いんじゃなかな。70点とれば合格だ。」
「よく試験会場では、いつもどおり問題を解いてくることという簿記の先生がいるが、それはいつもどおりを想定している場合に言えることを忘れないように。毎日問題を黙々と解いているうちは、いつもどおりはないからな」
最後に聞いた言葉はこんな感じだった気がする。
学校がある最後の金曜日、僕らは部室で最後の追い込みを行っていた。僕は、入念に電卓を打つ練習を繰り返していた。この時、僕が思ったことは勉強は意外とスポーツと似ているということが。もしかしたら、簿記だけかもしれないが。練習を繰り返して本番に臨む。まるで、アスリートのような生活を行っていると錯覚するくらい綿密に勉強していた。勉強はつまらないものだと思っていたが、意外と楽しいことに僕は気がついたのだった。
試験日当日。校門の前で、先生にあった。先生は「頑張れ」と一言いって、去っていった。進は「先生、最近冷たいなぁ」とポツリといった。後で先生は言っていたのだが、当時はとても緊張していたらしい。教え子が検定試験に行って「先生と言っていたことが全然違うじゃん!」などと言われないかどうか。そして、全員に合格して欲しかったので、もはや緊張で胸がいっぱいであったということを。
3階のいつもの教室で僕らは受けることになった。問題用紙を、南商業の制服を着た生徒が配っていた。見たことがない顔であったから、多分先輩じゃないかと僕は思った。商業高校のアルバイトに簿記検定試験の補佐というものがあるとは聞いていたが、本当にあるんだと内心驚いた(筆者も経験したが、割の良いバイトである。問題用紙配ったら、試験終わるまで、2時間外でボーッとするだけで、コンビニバイトよりも何倍も良い時給であった)
試験が始まった。
試験が終わった。
僕は、思った。先生が言っていたことは間違っていなかった。試験に臨む前にすでに合格は決まっていたような気がした。準備がこれほどまでに重要なことだとは知らなかった。高校生にして、結構大切なことを簿記の勉強で学ぶことが僕はできたようだった。
試験の結果はしばらくして郵送で届いた。合格すれば、大きな封筒で、不合格なら、小さい封筒でと事前に聞いていたので、大きい封筒が来た時は、ちょっぴり安堵した。僕は90点、進と橋本さんは満点、鮎川が75点、桜さんは82点で合格であった。一番勉強のできる鮎川曰く「他に勉強することがあったから、そっちをやっていた」ということだった。本当は彼が先生の話を信じず、自分のスタイルで勉強していたからであることは、僕らに打ち明けはしなかった。謙虚な気持ちで、先生の話を聞く姿勢も合格や高得点につながっていくということを染み染み感じた6月であった。