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会計の機能1

 先生は、ざっくりとした帳簿体系と仕訳について教えてくれた。結構ざっくりだったけど、理解できたと思う。……思う。

 他の仲間たちの表情を見るとなかなか納得のいっている顔をしていた。やはり、サラブレットや天才君。理解が早い。一人だけ、おせんべいに暖かいお茶を召し上がっている子がいるが。彼女が僕に気づくと、僕の方を向いて、「んッ」という小さい声とともに、おせんべいをこっちに向けていた。僕は、右手で空を切り口パクで「いらないよ」と言った。彼女は少々寂しそうな顔をしていたのだった。

「ざっくりとした説明だったが、今はたぶん理解できなかったと思う。ただ、これから色々な仕訳を学んで、覚えていけば、きっと理解できると思うんだ。うん。そしたら、時間も時間だ。今日は、最後にみんなで会計について話し合ってもらいたい」

 会計について話し合う。レジでのお会計の話を僕はしそうになったが、さすがにそこは踏みとどまった。

 僕らは、座っていた椅子と机を円形に配置した。小学校の頃からこのパイプに木が付いた椅子と机を使っているが、どうしてこれを採用しているのだろうか。安上がりなのだろうか。今時こんな重たい道具怪我の元のような気もするが。

「お題は、会計の機能について。時間は30分。皆で話し合って考えてくれ。はじめぃ」

 先生は勢いよくスタートを切ったが、当の本人たちは沈黙を貫いた。会計の機能。お財布機能じゃあるまい。こういう話をされると、やたら装飾語的な言葉が気になってしまう。会計よりも機能という言葉に。

 機能という言葉は、スマホで言えば、ネット検索機能とか、電話機能とかのことを指すんじゃないかと思った。ということは、会計という輩にも、スマホのような機能があるということではないのだろうか。

「機能ってなんだろうね」

 橋本さんが、ボソッとした言葉で、この静寂を切り裂いてみせた。

「会計の役割とかかな」

 鮎川くんがメガネを光らせていった。

「うーん。役割っていうか、そこは機能だから、できること?みたいな感じだと思うんだ。例えば、スマホで電話ができる機能、みたいなさ」

 進が、発言をすると鮎川は「確か。そういう感じかも」と頷いていた。天才を頷かせる進はすごい、と一瞬思ったが、自分も同じことを考えていたことに気づいて少々ショックを受けた。

「一定時点の経営状態と、一定期間の経営成績」

 おせんべいを置いて、桜さんが僕らに向かって言葉を発した。どうやら、おせんべいよりも楽しいことが目の前で行われているらしく、興味をもったようだ。

「なんだっけそれ」

 僕は、間抜けな相槌を打った。

「確か……貸借対照表と損益計算書の意味みたいなものだよね。なんか、簿記の授業で習ったよ。簿記の先生に、何度も何度も復唱させられた」

 鮎川くんたちが受けている授業と、僕らのクラスが受けている簿記の授業は先生が違った。僕らの先生は、担任の諸星光一であるが、鮎川たちは違う先生らしい。先生によって、教え方が違うようだ。

「そう。貸借対照表は、一定時点の経営状態を表す財務諸表。損益計算書は、一定期間の経営成績を表す財務諸表」

 進が唸っていた。考えまくっている。僕は、若干さくらさんのおせんべいの存在が気になっていた。おせんべいは、貸借対照表と損益計算書。載るとしたらどっちに載るだろう。おせんべいの存在をみんなに知らせる場合、どっちになるだろう。桜株式会社なる会社があった場合、桜株式会社の主力商品であるおせんべいは、一定時点の経営状態だろうか。それとも一定期間の経営成績であろうか。

 少なくとも経営成績とは言わない気がしてきた。学校の成績も、1学期、2学期、3学期、といったように、ある程度の区間をまとめて評価したものだった気がする。さすれば、一定時点、つまり今現在と考えた場合、おせんべいは貸借対照表と相性が良い気がしてきた。


 


 

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