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入学式

 4月。それは、この国においてほとんどのものが生まれ変わる月である。

 多くの会社は3月決算であり、新事業年度の始まりである。

 多くの学校は、慣れないよそ行きの服を着た多くのニューフェイスたちが新天地が一堂に集まって新しい生活に胸を膨らませている。

 満開の桜が綺麗な花びらをゆらゆらと散らしている下、僕もそんな期待に胸を膨らませていた。僕は、中学受験(それほど大変ではなかったのだが)をくぐり抜けて、高校に入学した。地元の南商業という、商業科の高校である。最近の中学生はほとんどが普通科に進むらしい。生意気にも大学を先取りしたような単位制を敷く高校も増えているという(実際は名前だけであり、意外と自由度は少ない。まぁ、大学の単位制も実のところ自由度はそれほど高くないと思うが)

 そんな中では僕は、伝統的な商業高校を選んだ。少々古臭いと周りからは反対されたのだけれど。

「商業高校に行ったら、就職するしかないじゃないか」

「商業高校に行ったら、頭良くなれないぞ」

「商業高校から大学なんて行けないだろ」

 周りからの熱い叱咤激励を受けた僕であったが、僕の決意は固かった。

 そう、僕の学力で行ける学校に学食はこの学校しかなかったのだ。嘘のような本当の話であるが、本当である。高校ライフにおいて僕は学食を重視していた。親にお弁当を作らせないで、お昼に優雅にランチを食べる。毎日、11時半くらいから日替わりランチのことで頭をいっぱいにして心を躍らすのである。大変愉快ではないか。僕の断固たる決意は、周りの熱い叱咤激励などに屈しなかったのだ。

 かっこの良い理由を語る僕ではあるが、実際のところ目先のことしか考えずに、商業高校を選択したのだ。しかし、将来がどうなるかなんて、中学生の僕にわかるはずがない。将来を見越して高校選びなんて到底できないのだ。受験予備校の先生は、少しでも偏差値の高い高校を押す(理由は、生徒の将来よりも予備校のレピュテーションのためである)けれど、僕にはそれが正しいとも思えなかったのだ。


ただ、この選択は僕にとって良いものとなっていくのである。人生とはわからないものだ。学食一つで人生が変わるのだから……


 多くの高校生が、講堂に集合して、入学式の開始を待っていた。

 伝統的な高校は、なぜだか銅像が校門の近くにある。大抵は、昔の偉人や初代校長などの銅像だ。

 僕の通う高校も公立校ではあるが、創立100周年を優に超える伝統校であるため、ご多分に漏れず銅像が講堂の入り口にあった。ただし、酸性雨に負けて大抵錆びついている銅像たちとは違い、その点を考慮されたのか、講堂の中に銅像は鎮座していた。酸性雨とは無縁の、芸術品のような美しい白さを保った銅像だった。僕はその大きさに圧倒されたが、他の人たちはそそくさとゲームの話やらアイドルの話をしながら講堂の中へと入って行ったのだけれどね。

「えー、みなさま。これより入学式を始めます」

「えー、みなさま。これにて入学式は終わります。クラス分けについては、座席に置いてあったA4の紙を見て、教室に向かってください。よろしくお願いします」


 入学式は、可もなく不可もなく終わった。僕は、最初の頃の記憶はあるのだが、最後の方の記憶がなかった。中学の頃から全校集会的なものは大変苦手で、良く寝ていた。マイクの音が、体育館の中で響き、最終的にマイクに戻ってハウリングしたときに、目を覚ますのだが、今回はそれがなかったため、寝てしまった。ハウリングを起こさない教師が悪いのである(いや、君が悪い)


 眠い目をこすりながら、とぼとぼと歩いて教室へと僕は向かった。

 これも不思議であり、学年が低い順に階数は増えていった。1年生は4階、2年生は3階、3年生は2階というように。これが、縦社会である。3年生ともなれば、もはや大人だ。1年の僕からしたら3年生は大人にしか見えない。きっと色々なことを経験して体力もおじさんおばさんになっているからだろう。まぁ、本音は担任の先生が学年が上がるにつれて楽になっていく仕組みなのかもしれないが。

 階段を上がっている最中、一人のスーツを着た男性とすれ違った。なにやら慌てている様子だったが、僕は無視して登り続けた。

 

 4階にたどり着いた瞬間、僕は肩で息をしていた。春休みと受験勉強でなまりきった僕の体は相当弱体化していたようだ。なにか運動部にでも入部したほうが良さそうであると思ったのだった。

 4階から上がってすぐ右の教室が1ー1組、僕のクラスであった。

 教室のドアを開けようとすると、ギギッと擦れる音がしたのち、勢いよくバカッという音とともに教室のドアは開いた。よく見たら、そのドアは木製だった。さすが、伝統校。

 学校界では特等席と呼ばれる「窓際」の席に僕は座った。今日はオリエンテーションだから、特に座席は初めは決まっていなかった。まぁ、きっとその後に名前順に並ぶだろうと予想はしていたのだけれど。

 学校のチャイムがなってからしばらくして、彼が入ってきた。

 そう。

 僕の人生を変える彼が。この時、僕は今日は食堂に行けるのかどうかで頭がいっぱいであったのは言うまでもない。(結局、行けるのは次の日から!)




 

 


 

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