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三極史  作者: 衣笠
8/8

志在 後編

「殿、顔色が優れぬようですが大丈夫でございますか?」



「気にしないでくれ。頼むから……」



「わかりました」



朝起きてから昨日の二人のせいで身体中が筋肉痛だなんて口が裂けても言えなかった。もう思い出したくもない……。



「さて、朝から皆に集まってもらったのは、これから北海へ向かうためだ。北海へ黄巾の残党が集まり攻めこもうとしているらしい。孔融殿は善政を敷くと名が知れ渡っている方だ。だからどうにかして助けたいと思う。意見があれば言ってくれ」



「衣笠殿、残党の兵力は如何程になりまするか?」



「約二万だ」



「二万では我々の約二倍ですね。勝ち目は……愚問でしたね」



「二万と言っても集まっただけで連携も何もあるはずがない。これは勝てる戦だと俺は思う」



この言葉に一名を除き皆頷いてくれた。これは賛成と見て良いのかな。寝てるやつの事は見て無ぬふりだ。



「反論がないなら準備をしてくれ。俺はその間に陶謙殿に説明してくる。よし、解散」



俺は陶謙殿の部屋へと向かった。



「失礼します。朝早くより申し訳ございません」



従者の人に取り次いでもらうと直ぐに許可が降り、俺は陶謙殿の部屋へと入った。



「どうなすった。このような早朝より儂の所へ来るとは……急ぎか」



「はい。北海の孔融殿が黄巾の残党に襲われているという情報が入りました。孔融殿もまた、陶謙殿と同じく義に厚いお方と聞きます。ですので民の為にも助けたいと考えています」



「そちらはあくまで客人。何をするにも拘束などせぬわ。好きにしてよい」



そう、陶謙殿は笑いながら言った。やはり良い人のようだ。



「ありがとうございます。では、早速参りたいと思います」



「儂はまだ具合がよくならぬから行けぬが気をつけて行くのじゃ」



「はい。ありがとうございます」



俺は部屋を去った。


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城門前 衣笠


「……呂布。こんなところで何をしているんだ?」



門を出るとそこには呂布がうつらうつらしながら壁にもたれていた。寝ているのではないだろうか。



「待ってた」



一応起きているらしく、俺の問いから数十秒してようやく返事が返って来た。会話とは難しいものである。



「俺を?呂布が?」



「文遠が待てって」



「そうか」



初めて接続語が出た事に驚ながらよく見ると、昨日の俺の上着が戟に細くなって結ばれていた。いやいや、どんな技術だよ……。



「呂布、それはどうしたんだ?」



「拾った」



「どうやって、いや、なんで付けてるんだ?」



「良い香りするから」



よくわからないことを言い出しました。



「まあいいや。取り敢えず馬はどうした?」



「文遠が」



持っていきましたと。相変わらず会話がしづらいな……。と考えていると趙雲が馬で此方に走って来た。



「殿、準備が整いました。いつでも行けます」



「よし、わかった。急いで向かおうか」



俺達は趙雲に急かされながら準備が整った軍へと向かった。さて策を考えなければと俺の頭はフル稼働し始める。次の戦の為に。


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北海前 衣笠


「どうやら大将格は三人らしいな」



北海付近に到着し、敵の軍を見ていると馬に乗った奴が三人北と西と南から城を攻めているらしい。しかし門は固く閉ざされており難攻不落と言った感じだな。だが衝車がなくともこのままでは門自体が壊されかねない。さて、どうするかな……。



「東門は海に近く行き来がしにくいため攻めないのだと思います。殿、どうなさいますか?」



此方の武将は四人、兵力は八千。一気に攻めるだけなら被害は大きい。ならばこそ数を合わせるしかないな。



「よし、考えはまとまった。呂布と張遼はここから迂回して敵の数が一番多そうな西門へ攻めてくれ。そこで大将を潰せたら尚良いが無理はしないでくれ。その後に張コウは南門前の大将を潰し、西門へ向かい合流して大将のみを狙う。趙雲は東側から北へ向かい背後より大将を潰せ。作戦は以上だ」



「……な、何故大将のみを?」



「いくら数が多くても連携はない。なら全体の指揮官を潰せば次第に散り散りとなり勝手にいなくなるさ」



「わかり申した。我々は迂回し西門へ向かいまする」



「張遼隊は兵を四千、張コウ隊は兵を二千、そして趙雲隊は二千だ。時間はあまり掛けずに終わらせるぞ。作戦開始だ!!」



「おぉーーーーーーーーーー ー!!」



戦が始まった。



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西門前 張遼


「指定された位置へ着いた。皆の者、我らはこれより西門へと向かう。衣笠軍の力を見せてしんぜようぞ」



「おぉーーーーーーーーーー!!」



「呂布殿、頼みますぞ」



「うん」



呂布殿は相変わらず口数が少ないが既に臨戦態勢に入っているようだ。流石です呂布殿……。



「全軍、進むのだ!!」



一気に進行を開始する。衣笠殿より鋒矢の陣にて攻めよ。とのことだったが意味はいずれわかるであろう。我らはただ命じられた事を着実に遂行するのみ……が、そんな考えをよそに、呂布殿は先陣を切って敵軍へと侵攻する。



「呂布殿、単騎では危険です……。言っても聞きませぬな。我らも呂布殿に続け!!」



敵兵もようやく此方に気づいたのか、方向を門より我らに向けられる。しかし狙うは大将のみ。



「我らは兵を倒し時間を稼ぐぞ。呂布殿大将を頼みますぞ!!」



一気に敵の中へと斬り込んだ。



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西門 呂布


「大将誰?」



文遠、大将頼む言った。見ても顔知らない。だから来たのを切る。



「呂布だ!!呂布がいるぞ!!なぜこんなところにいるのだ!!」



名前呼ばれてる。誰が?聞こえた方を切ってみる。でも大将わからない。



「呂布を倒せば我が名が上がるわ」



馬に乗った偉そうなのがいた。大将?



「うああああああ……」



切ってみた。大将かわからない。他のも切り続けたらわかるかな?



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本陣 衣笠


「張遼達が戦い始めたな。よし、張コウ隊は西門に気を取られている南門兵の背後を突け。趙雲隊は東門より回り北門兵の背後を突け。頼んだぞ」



「承知しました」



「……わ、わかりました」



そう言うと二隊は出陣した。後は皆に託すのみだ。



張遼隊は俺の言った通り鋒矢の陣で戦っている。鋒矢の陣とは一点を攻めこむのに向いている。形は↑(矢印)に似ている。張遼はこの先端を務めており、左右から来ても対応が利きやすいために今回この陣形で行ってもらった。



俺の陣形に対する知識は日本の戦国時代でもよく使われている。少し名前が違うのがあるくらいで形はほぼ同じ。というか、基礎は孫子から来ているため三国志でも陣形は変わらない。戦国時代に詳しいが為に陣形の大切さもわかっているつもりだ。これからも色々と学ばなければいけないな。



さて、後は奴が出てきてくれたら嬉しいんだがな……。俺は北海の城を見つめた。



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南門前 張コウ


「頼んだぞ」



「……わ、わかりました」



来ました。ついに出撃です。衣笠様の為に今回も頑張ります。



南門の兵は此方に気づいておりません。衣笠様の言う通りです。凄すぎます……。



「……た、大将はあれですね」



馬に乗り此方の奇襲にあたふたしている奴を発見しました。近寄りたくないので弓で狙うことにします。狙いはもちろん……首。



「えい」



やりました、命中です。馬から落ちたのが見えます。ここは策通りに張遼さん達の部隊に合流したいと思います。



「……み、皆さん西門を目指しますよ」



「おぉーーーーーーーーーー!!」



敵兵は大将を失い、徐々に散って行きます。まさに衣笠様の言う通りです。流石ですね。早く褒めて欲しいです衣笠様……。



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西門 張遼


「む?張コウ殿が此方に向かっているという事は南門は制圧したということ。やりまするな」



それはつまり呂布殿も大将を一人倒したということ。残るは北門大将のみ。しかし、兵は未だに一万近く残っている。油断は出来ない。と、考えていると突然西門が開いた。



「衣笠軍と共に戦い北海を守ろう。進むんだ!!」



「おぉーーーーーーーーーーー!!」



どうやら孔融軍も共闘する気らしい。これは助かる。



「我らも一気に片付けるぞ」



勝機はすぐ近くだ。



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北門 趙雲


「北門の大将を探せ。討てば勝利だ!!」



敵の慌てぶりを見るにどうやら他は制圧したらしい。ならば詰めは私が務める。



「見つけたぞ。倒れろ!!」



「ぐああああああああ……」



馬に乗っていた輩は首と胴が離れて地に落ちた。これで大将は全員潰した。声高らかに私は言う。



「敵将討ち取ったり!!降伏せよ。貴様らに勝機はない」



私の声に反応したのか徐々に武器が地面に落ちて行く。黄巾の残党は完全に制圧された。我々の勝利だ。



私は皆のいる西門へと進んだ。



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西門 衣笠


「よくやってくれた。俺達の勝利だ」



「おぉーーーーーーーーーー!!」



残った残党は逃げ出してほとんどいなくなった。西門には武将は全員揃っている。が、一人見慣れない人物がいないのだが誰だろうか?



「救援ありがとう。城内を案内するよ。僕に付いてきて」



そう言うと見知らぬ男?は北海の中へと兵と共に入って行った。



「ちょっと待て君、名は?」



「ん?僕かい?僕は太史慈。太史子義だよ」



太子慈を発見しました。


「此度は本当に助かった。衣笠軍と太史慈のお陰だ、この通り頭を下げて礼を言う」



俺達は太史慈の後について行き、北海の太守である孔融殿に頭を下げられていた。外にいた民の歓喜の声からするに本当に危険な状況だったらしく、救えて良かったと思う。



「いやいや、全ては民のためです。残党等に好き勝手はさせません」



「やはり、連合軍でも感じた通りただの青年ではなかった。これからも民のために頑張ろうではないか。太史慈もよく来てくれたな。嬉しく思うぞ」



「いや、以前、母が世話になったから恩を返しに来たまでだよ。まあ僕一人ではどうにもならなかったけどね」



そう俺らの方を見ながら言った。やはりこいつも仁義に厚い奴らしいな。



「衣笠殿は徐州に引き返すようだが、太史慈君はどうする。ここにいても構わないぞ」



「僕は孔融殿に恩は返したがもう一人に恩が出来てしまった。衣笠殿、僕を臣下に加えてはくれないだろうか。きっと役に立てると思うんだ」



「願ったり叶ったりだ。此方から頼むよ。よろしく頼む太史慈」



「任せてよ」



こうしてまた一人、太史慈という仲間が増えた。これからも仲間が増えていけば良いなと思う。



「孔融殿、それではまた機会があれば」



「うむ、此方も歓迎致しますぞ」



こうして俺達はまた徐州へと向かった。その道中、突然太史慈が話しかけてきた。



「しかし、衣笠殿は兵から慕われてるんだな。誰も彼も良いことしか言ってなかったし、それほど優れてるという事だね」



「いや、俺なんてまだまだだよ。偶然用いた策が成功した、みたいなところだ。全部みんなのお陰だよ」



「自分を低く見せても駄目だね。石を玉に見せるのが無理なように、玉を石には見られないんだ。立派な殿の力だよ。もっと自信を持てば良い」



そう言って太史慈は笑った。何か気恥ずかしくなり顔を背けながらありがとう。と言った。しかし太史慈は何でこんなことをいきなり言ったのだろうか?何か理由が有る気がするそう思った。



「殿、前より徐州の兵が此方に向かって来ます。何かあったのではないでしょうか?」



前を見ると確かに馬に乗った徐州の兵が一騎、此方に向かっている。何かあったのだろうか?すると徐州兵は俺を見るや否や大きな声で話始めた。



「衣笠殿!!陶謙様が危篤状態であります。陶謙様が衣笠殿をお呼びで、直ちに徐州へ来て下さい」



「……趙雲!!悪いが軍は任せるぞ。俺は先に徐州に向かう」



「は!!わかりました」



俺は急いで徐州へと馬を走らせた。嫌な予感を感じながら。



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徐州 陶謙自室 衣笠

「陶謙殿!!」



「おぉ、衣笠殿来てくれたか……」



俺が部屋に入るとそこには前回より顔色の悪くなった陶謙殿が横になっていた。



「儂の命は風前の灯。いつ消えてもおかしくはないじゃろう」



「そのようなことを言わないで下さい。まだまだこの徐州の民の為にも生きてください陶謙様」



後ろにいた従者が泣きそうな声で言った。その言葉に陶謙殿はそうしたいのは山々じゃがな……。と体をゆっくり起こし始めた。



「儂ももう長い。天命くらいはわかるつもりじゃ。幾分長く生きたのう」



起こした体は立ち上がり、そのままゆっくりと城下の見える廊下へと歩き出した。その行動に従者は急いで駆け寄り身体を支えた。



「ここまで賑わいのある地になったのも儂だけの力ではない。全て儂の為に、民の為に力を貸してくれた皆のお陰じゃよ。民は笑い、安心して暮らせる安住の地。これ程良い国になった。儂は満足じゃ……。しかしな、一つ心残りがある。それは後の徐州の行く末じゃよ」



外を見ていた身体は俺の方を向いた。



「衣笠殿、客人のみであるそなたにこんなことを頼むのは心苦しいんじゃが、徐州の太守になっては下さらぬか?貴殿にしか任せられぬのじゃよ」



「俺がですか?」



「この国は戦が無い故に何も出来ないと言っても過言ではない。それに比べ衣笠殿のような民を一番に案じ、兵法にも優れている者にしか頼めぬわ。この通りだ、どうか頼む」



陶謙殿は膝をおり、頭を下げた。それ程までに民の事を心配しているのだ。俺は、



「若輩者ではありますが、慎んでお受け致します」



俺の腹は決まった。


「そうか、それなら安心じゃ」



俺の手を取り涙を流す陶謙殿。そのまま少しして手を離すと、床へと向かった。



「見苦しい所をお見せした。しかしもう安心じゃ。早速遺言にしたためるとしよう。誰か紙と筆を」



その言葉に直ぐに用意して持って来る従者。流石に慣れてらっしゃる。



「よし、これで思い残す事はない。衣笠殿、すまないな。恩に着るぞ」



「いえ、お気になさらず」



「それでは、急いで駆けつけて、疲れたであろう。ゆっくり休んでくれ」



「失礼します」



俺はその場を去った。少し暗くなる気持ちを連れたまま。



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徐州 衣笠


「……ふう」



それから二日後、陶謙殿は亡くなられた。葬儀の際にはこの国のほとんどの人間が涙を流し、陶謙殿の死を悲しんだ。それほどまでに慕われていたという事である。まあ当然だろう。陶謙殿の死に顔は微笑んでおり、安心しきった顔だった。



「殿、こんなところにおられましたか。皆が待っていますよ」



「そうか。わかったよ」



それから俺は遺言によって正式に徐州の太守になった。反論する人間は居らず、色んな人が歓迎してくれたのが何だか嬉しい。



「本日より太守となった衣笠 康平だ。陶謙殿の意思を継いで更に良い国にしたい。みんな、協力して欲しい」



「おぉーーーーーーーーーー!!」



俺の新しい道が始まった。陶謙殿、見守っていて下さい……。



第八話 完

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