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三極史  作者: 衣笠
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虎牢関侵攻 後編

本陣 衣笠


「それでは、準備も整いました。これから虎牢関を落とします。まず虎牢関より見て北に我が軍の半数、馬騰、孫堅、孔融の四軍を、南東に袁紹、袁術、公孫贊の三軍を、最後に北西に我が軍の残り半数と衣笠を置きます。皆が全力で戦えば必ずや勝てるでしょう。それでは、一刻後攻め要ります。解散」



曹操の言葉に皆が散っていく。曹軍のみなら作戦としは成功しやすいだろう。俺も帰って準備をしよう。そう思い幕舎へ戻ろうとした際、後ろから話しかけられた。



「下朗よ。妾は北西の軍に入ります。そして妾達は最低限の事しかしませんので好きにして下さい。目の前で不快な旗が揺れるのは見るだけで辛い光景ではありますが、我慢しましょう」



「わかりました。助言感謝します」



「助言?」



「貴女が敵ならそんなことは言わないだろうから言うだけ味方という事です。最低限はしてくれるなら助かりますよ」



「……ふふ、あはははははは!」



そう言うと急に笑い始めた。抱腹絶倒位に……変なこと言ったか?



「そうですか。なら期待しておりますよ、衣笠」



「!?」



手をヒラヒラさせながら去っていく曹操。初めて衣笠としっかり呼ばれた気がする。例えこれが一時期の仲だとしてもこれは、負けられないな。俺はそう思った。



「全員集まってくれ」



幕舎に戻り声を掛ける。俺の声で一斉に兵たちが列をなして俺の前へと並んだ。



「よし、鶴翼の陣を作るぞ」



「おぉ―――――――――!!」



俺の一言で一気に兵が動き出す。鶴翼の陣は主に敵を包囲するのに優れている。見た目はアルファベットのUの形だ。この形は鳥が翼を広げた形らしい。この真ん中に敵を引き込み両翼の先から閉じ込め包囲する。



そして今回、右翼の先に趙雲を、両翼の中心に張コウを置いている。成功すれば良いがな……不安は大きい。



「……さ、衣笠様、鶴翼の陣整いました。い、いつでも行けます」



「わかった、ありがとう。よし、合図まで待機だ」



俺は遠く後ろにいる盟主を見る。いつ来ても良いようにしなければな。



「これより攻め入る!全軍突撃!」



曹操の声と共に火の手が空に上がり大きな爆音が鳴る。



「合図だ。ゆっくりと前進しろ!!」



戦いが始まった。



ちなみにこの時代には既に花火らしきものは存在する。



侵攻を開始する。初陣とは打って変わって、慎重に移動をする。その様子に疑問を持ったのか張コウが声を掛けてきた。



「……さ、衣笠様、い、急がなければいけないのでは?」



「いや、まだこれでいい。全体の数だけなら此方の方が上だ。そして全軍で突撃となると頭の良い奴なら弱いところを狙ってくる筈だ。張コウ、この中で一番弱そうなのは何処だ?」



「……こ、ここです」



「だろ。だからここでゆっくり進めば……」



「殿!!此方に迫る隊がおります」



「狙い通りだ。伝達部隊、両翼の先頭に少しずつ広がれと伝えてきてくれ」



餌に喰いついたな。後は逃げられないように網で掬い上げるぞ。そのために、



「まずは頼むぞ趙雲……」


-------------------------------------------------------------------

鶴翼の陣 趙雲


「皆の者!!右方に徐々に広がるぞ。私に続け」



陣形とはただ作れば良いという訳ではない。臨機に転じて方向、間隔、そして皆の息を合わせて動かなければ陣形としては活きないのだ。陣形を活かすも殺すも将次第、これも将たるものの務めである。そして、



「貴様が張遼か?」



現れたのは他の軍とは明らかに動きが違うよく調練された部隊だった。そして、その先頭にいる凛とした雰囲気を持つ女。きっと奴が目標の筈だ。私はそう確信し槍を構えた。



「如何にも、張遼とはこの張文遠のことだ。そなたの名を聞こう」



「私は衣笠軍の将、趙子龍。手合わせ願おう」



「武士なればこそ逃げるわけには行くまい」



静かに薙刀を構えた張遼。久し振りの強敵らしい。一度呼吸を整えて、



「行くぞ!!」



両者の得物が交わり斬りあいは始まった。



張遼の隙の無い攻撃を防ぎ、そのまま仕掛ける。しかし、それも軽くあしらわれた。



「流石に出来る。油断は出来ぬな」



「詭弁を」



もう十合近く打ち合うがやはり華雄などとは比べ物にならない強さだ。しかし、殿は仲間にしたいと申した。ならばここで負けるわけにはいかない。



「はあ!!」



高いところから一気に振り下ろす。しかし張遼は難なくそれを受け流し、横凪ぎの一閃にして帰ってくる。



「くっ……」



何とか柄の部分で受け止め一度間合いを離す。が張遼もその瞬間に一気に距離を詰める。戦い慣れているな……。



「どういたした?防ぐばかりでは勝てぬぞ」



張遼の声には余裕すら感じる。だが、そろそろだな。私は一気に張遼に背を向け鶴翼の中心へと向かう。



「張遼よ。此度は引かせて貰う。また手合わせ願いたい」



「一騎討ちにて逃げるとは名が泣きますぞ。逃がしはせぬ」



やはり武士の鑑である奴が逃がす筈がない。しかしこれで策は成立する。張コウよ。後は任せるぞ。


-------------------------------------------------------------------

鶴翼の陣 張コウ


「張コウ、来たぞ!!」



「……は、はい」



ついに来てしまいました。正直怖いです。だけど衣笠様の為にも頑張らなければいけません。見限られないように頑張らなければなりません。



「……わ、私は張儁乂、て、手合わせを願います」



「今度はそなたか……仕方がない無下にする訳にも往くまい。尋常に勝負!!」



斬りかかってくる張遼さんの刃を受け止めて私の槍で顔辺りを突きます。しかし簡単に避けられてしまいました。とても強い人です。どうすれば良いでしょうか……。



「えい」



「はあああ!!」



刃を重ねる事に私が不利になるのがわかります。何か手を……やはり殺さないのは難しいですね。よくわかりました。



となると一番早いのはやはり、



「そこです」



狙うは柄の中心です。そこへ全力で振り下ろします。



「くっ……」



ここは力には関係ありません。何故なら狙ったのは武器破壊ですから。



「……と、投降して下さい」



折れた薙刀を構えさせる前に喉元へと槍を突きつけて私の勝ちです。衣笠様、どうでしたか?私は殺さないで頑張りましたよ。褒めてくれますか?衣笠様……。


-------------------------------------------------------------------

鶴翼の陣 衣笠


「何処にそんな力が……」



思わず口に出ていた。しかしそんなことを言っている場合でも無かった。張コウが勝ち、張遼は馬から降りた。



「不覚……さっさと首をはねよ。戦場にて負けたのだ。悔いはない」



「なあ、張遼。俺達の仲間になってはくれないだろうか?君の力はこの軍に必要だ。君ほどの人材がこんなところで死ぬのは勿体なさ過ぎる。もっと民の為に働いてくれ」



「拙者に生き恥を晒せと申すか!!」



「俺は酷なことを言ってるいるかもしれない。だけど、ここで死んでもなにも意味はないだろ」



「……」



沈黙が続く。目を閉じて、なにかを考えいるその様子張遼。これで駄目なら諦めるしかない。そう思っていたその時、



「……これも天命か」



小さく何を言ってるかは聞き取れなかった。そして目を開き、頭を此方に下げた。



「一度は捨てたこの命。張文遠、貴方に従いましょう」



「ありがとう、よろしく頼むよ張遼」



俺はその肩に手をやり祝福した。そして一つ目の課題は済んだ。次に移ろう。



「戦況はどうなっている?」



「は!!南西に呂布がおり一気に態勢を崩されつつあります」



「よし、俺達はこのまま虎牢関を落とすぞ」



「しかし殿、南東を助けねば……」



「どちらにせよ虎牢関さえ落とせば呂布も手が出ないだろう。何より此方には目を向ける事は無いと見ていい」



「何故ですか?」



「呂布は張遼の強さを知っているから此方に攻め込んだのなら問題ないとタカをくくっている筈だ。だから張遼を仲間にすることで道が開ける。一気に攻め落とすぞ」



俺の言葉を聞いてか、小さな声で張遼が俺に話しかけてきた。



「……衣笠殿、降ったばかりの者が言うのは非常に心苦しいのですが、呂布殿の元へと行かせてはもらえないだろうか?もしかすれば引き入れられるかも知れませぬ」



「どうやって?」



「拙者達は董卓殿の元で刃を振るっておりましたが、董卓殿は我らを労いをしてくれてはおろか、民に対しても私利私欲の為に税を増やし、良くして頂いた覚えがございませぬ。呂布殿もあまり良くは思っておりませんでした。ですから信用して下さるかは判りませぬが、拙者が行けば降る可能性もございます」



「……それは誰の為に言ってる?」



「不躾ではありますが呂布殿の為でございます。この戦況、兵は既に逃げているものもおります。勢いがどちらにあるかは明白。あの方をこんな形で終わらせたくはございませぬ。何卒拙者に行かせて下さい」



張遼は土下座の様な体勢でこいねがってきた。



「俺達は虎牢関を落とす。張遼、無理なら帰ってこい。いいな?」



「衣笠殿……忝ない」



直ぐに張遼は馬に跨がり南東へと向かって行った。



「よし、急いで虎牢関に向かうぞ。進め!!」



「おぉ―――――――――!!」



先ほどのゆっくりとした移動とは一転して、俺たちの軍は辺りを警戒しながら一気に進む。どうやら虎牢関の門の前は手薄になっているらしい。しかし、虎牢関自体が閉じており、前回のように攻め入ることができない。どうする?



「衣笠よ。我が軍の衝車を使いなさい」



「えっ?」



「虎牢関の門を破るには衝車が一番です。許可いたします。連れていきなさい。妾達は援護致しましょう」



いつの間にか曹軍が既に後ろで待機していた。



「人の手柄を取るほど落ちぶれてはおりません。この程度の手柄を奪ったとなれば世の笑い者になりましょう」



「ならありがたく使わせていただく」



その言葉に満足したのか少し微笑みながら後ろを向いた。



「曹軍よ、城門前の敵を殲滅し衝車を援護しなさい。進め!!」



「おぉ―――――――――!!」



「それでは、健闘を祈ります」



どうやら俺には思っている以上に仲間が多いみたいだな。そう感じた。



「衝車を急いで進めるぞ」



衝車とはこの時代の攻城兵器の一つである。城壁や門を破壊するのに優れており、言うならば今の戦車の様な存在で、その仕組みは振り子式の巨大な槌(金槌の尖った部分みたいなイメージ)で一気に壁を壊す。



「張コウは衝車付近を、趙雲は先頭を頼む」



衝車の難点は移動速度にある。槌自体が重たい為平坦な道でもなかなか進まない。門までの距離にしてもまだかかる。



「殿、北の軍勢も敵兵を突破したようです」



これで敵は混乱し、此方だけに構っていられないだろう。ここは、



「押す人数を増やし、一気に門までの前進する。この戦を早く終わらせるぞ」



「おぉ―――――――――!!」



勝利目前と言うのもあってか、兵たちにも勢いがあった。予想以上の速度で門へと進む。他の援護もあってか、門の目の前まで行くのにそう時間はかからなかった。



「門に当たる寸前まで接近し破壊するぞ。一撃目開始!!」



凄い轟音と共に壁に当たる槌。しかしすぐには壊れない。



「二撃目開始!!」



さっきより振り幅が大きくなった槌が門に激突する。しかしまだ門は壊れない……。



「あと少しだ。三撃目開始!!」



そしてついに、



「殿、門が壊れました!!」



「よし、よくやった。一気に制圧しろ」



「皆の者、この趙雲に続け!!」



「……わ、私にも来て下さい」



こうして二人が入って間も無く虎牢関を制圧された。



どうやら今回も上手く行ったようだ。思わず安堵の息が漏れた。しかし、



「殿!!洛陽が、洛陽が燃えております」



「これは……」



「殿、これは一体どういうことでしょうか!!」



「……集団遷都だ」



確か俺の読んだ本だと、董卓はこのままでは負けると、洛陽の民家にある金等を徴収し長安へと向かっている。その際に洛陽に何も残さない為に洛陽自体を燃やすという三国志で有名な場面である。まさかこの目で見ることになるとはな……。



「取り敢えず門を完全に開いて味方を待とう。今の兵力では流石に歯が立たない」



「く、漢十二代の歴史が……」



戦をしていた筈なのに殆どの兵や将が呆然としていた。それほどまでにすさまじい行為という事である。



虎牢関の戦いは連合軍の勝利で終結し董卓軍の兵の殆どは散り散りとなった。それから他の軍もすぐに洛陽に入り、兵は消火に当たる。全軍の大将は一つの幕舎に集まり話し合いを開始した。



「このまま董卓を追います。まだ遠くへは行っていない筈です。全軍、進みなさい」



「待たれよ曹操。兵達は戦いで消耗し切っておる。ここは休息を入れるべきだ」



「ならば袁紹のみ休んでいるとよいでしょう。妾に賛同するものはついてきなさい」



その曹操の発言に言葉を異を唱えるものはいなかった。しかし賛同するものもいなかった。



「我らは正義の為に決起いたしました。しかし何故動こうとしないのですか?董卓は強制遷都で人心を失っております。今こそが好機ではないのですか……」



「兵無くして戦えはしない。休息を取るべきだ」



「勝手になさい。妾達のみで行きます。後はどうとでもなさい」



曹操は静かにただならぬ雰囲気を出しながら幕舎を出た。その際に一度此方を見た気がするがきっと気のせいだろう。



「それでは名家たるこの袁本初がここで連合軍を解散とする。後は好きにするが良い」



連合軍はこの場で解散となった。何とも言えない歯痒さを残したまま……。



それからある程度、洛陽の消火を終えて俺達は徐州へと向かう。その道中に趙雲は俺に質問をしてきた。



「殿、何故曹操について行かなかったのですか?董卓の行いは許せるものではございませぬ」



「……一番の理由は兵力だ。数が圧倒的に少ない俺達が行っても足枷にしかならない」



「それはそうですが……」



「どうにかしたかったのは俺も同じだ。だけどどうする事も出来ない時もある。割り切るしかないんだ」



「……はい」



認めたくない。そう言えば良いものを趙雲は内に秘めた。その思いを民の為に尽くして欲しい。俺はそう思う。



「……さ、衣笠様。向こうから誰か来ます」



「あれは、張遼か。その隣は……誰だ?」



「ようやく見つけました衣笠殿。此方は呂布殿でございます」



「呂奉先」



赤い馬に乗る女性。これが呂布?イメージが違いすぎるのだけど……しかもこれは自己紹介終わりか?もしかして……。



「これからは衣笠軍にて、この刃を振るいましょう。よろしく頼みまする」



「よろしく」



「あぁ、此方こそ頼むよ二人共……」



呂布よ。あまりにフランク過ぎないか?いや、これは口数が少ないだけか。なにはともあれ仲間が増えたことは喜ばしい。これからの事は徐州に戻ってから考えよう。



その後俺達は五人で色々と話ながら進んだ。



第5話後編 完

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