虎牢関侵攻 前編
「先の戦、お見事でした。この戦の第一功績は非常に不本意ながらも衣笠軍。そして第二に孫堅軍、以上です」
「……ありがとうございます」
巳水関を落としてから数日して本軍が到着した。俺と孫堅は曹操に呼ばれ話をしているという訳だ。しかし腑に落ちないような表情をしている孫堅に曹操が話しかけた。
「孫堅殿、如何なされました?」
「納得行かぬ。我が軍が先陣して巳水関前を制圧していたからこそ衣笠は巳水関を落とせたのだ。そのような漁夫の利認められぬ」
「しかしこれは……」
「孫堅殿、あくまで貴女が落としたのは巳水関の前。その後夜襲を受けたのは何処の誰ですか?そしてそれを救ったのは?」
「くっ……」
孫堅はそれ以上何も言わず幕舎から出て行った。自分でも本当はわかっているのだろう。ただ認められないだけのようだ。
「やれやれ困ったお人です。それはさておき、下朗は次の戦にも出陣して貰います。虎牢関へは北西、北、南東と三方向から攻め要ることが可能です。下朗はその北西より進軍なさい。以上です」
前回のパターンと同じでさっさと出ろという事だろう。その前に一言。
「では失礼します。さっきは弁護ありがとう」
「下朗は気にしなくとも良いですよ」
その声を聞きながら俺も幕舎を出た。その足で俺は自陣の幕舎へと向かう。これからどうするかも考えないといけないな。そうこう考えている内に到着した。
「殿、先の戦の快勝お見事でした。殿の力有ってこその結果です。次の戦もよろしく頼みます」
「……わ、私もよろしくです」
「いや、巳水関を落とせたのはみんなのお陰だ。此方こそよろしく頼むよ」
「は、ありがたきお言葉」
幕舎より帰って来ると二人が待っていてくれた。何か嬉しく感じる。
「それより兵達の具合はどうかな?」
「……に、二千人から今は千五百人くらいまで減りました」
あの戦いで五百人も死んでしまった。とても悲しいことである……。しかしそれが無駄死にでは無かったことをなんとか俺が証明する。だから安らかに眠って欲しい。
「殿、今回も策はあるのですか?」
「策はまだもう少しまとめてから話す。でも命令はある。今回、何があろうと呂布とは戦うな」
呂布とは、三国志で最強と呼ばれた男である。この世界では男か定かではないがな。赤兎馬と言われている一日千里走る名馬に乗り、敵を薙ぎ倒す豪傑である。
「……な、何故戦ってはいけないのですか?」
「明らかに分が悪すぎる。確かに二人なら何とか保てるかもしれないが、何より兵が少なすぎる。攻め込まれたら勝ち目はほぼ無いだろう。だから呂布は駄目だ。だが、もう一人は出来たら仲間にしたい」
「それは誰ですか?」
「呂布の副将である張遼だ」
張遼とは文武両道、忠義の念に厚く、いわゆる騎士のような人物である。張遼は三国志で俺が一番好きな武将でもある。
「仲間に成れば必ず役に立つ。死なせるには惜しい。無理を言っているのは分かっている。だから出来たら頼む」
「ご命令とあらば善処致します。一体どのような人物でありましょうか楽しみでなりません」
趙雲は少し楽しそうに喋り始めたが逆に張コウは下を見ていた。どうかしたのだろうか?
「張コウ、どうかしたか?」
「……ま、また私は表立ち戦えないのでしょうか……」
確かに巳水関では完全に工作部隊的な役割であり、一番活躍したにも関わらず名は趙雲の方が上がっている。そういう感じだろう。なら当然俺のすることは一つしかない。
「よし、張遼の捕縛に関しては作戦が決まった。みんな、よく聞いてくれ」
俺は周りにいる兵達に聞こえるように大きく話した。
「まず、俺達は鶴翼の陣にて攻める。その時に趙雲は右翼の先頭を。張コウは中心にいて貰う。つまりは趙雲が張遼を鶴翼の中心に誘き寄せ包囲し、張コウに戦って貰う。詳しくは指揮しながら臨機応変に対応する。張遼に関しては以上だ。そして捕縛後は一気に虎牢関へと攻めいる」
「しかし呂布がいるのでは?」
「大丈夫だ。問題ない。だからまずは張遼を捕縛することからだ。今回張遼さえ抑えれば勝てる。俺はそう考えてる」
俺の声に周りから聞こえるおお!!という士気が上がっていく声。非常に気分が良い。
「張コウ、今回一番大事な役目だ。やれるな?」
「…は、はい」
「とりあえず作戦は以上だ。戦までにみんな準備を頼む。解散!!」
よし、作戦は決まった。後は虎牢関にどう入るか……まぁどうにかなるだろう。勢いで考えつくさ。きっと。
「……あ、あの、ありがとうございました」
後ろから聞こえた小さい声に振り向くと既に張本人は走り去っていた。何とも可愛らしい。後は始まりを待つのみ。色々と疲れたから少し寝よう。そう思い俺は横になり寝ることとした。
-------------------------------------------------------------------
衣笠軍幕舎前 曹操
「張コウ、今回一番大事な役目だ。やれるな?」
「……は、はい」
「ふふ、あの下朗なかなか面白いことを考えている様ですね」
陣内を歩き策を考えていると、他とは違う熱気を感じ近寄ってみるとそういう事でしたか。納得しました。
「なら今回は実際に下朗の手並みを拝見するとしましょうか」
ん?誰かが走り抜けた気がしますが気にしないこととしましょう。急ぎ策をまとめなければ……。
そう思い幕舎へと向かう。ふふ、楽しくなって参りました。
第5話前編 完