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三極史  作者: 衣笠
3/8

儀式

「……も、もうすぐ着きます」



徐州の城から河南までの道のりを俺達は数日を掛け進んだ。このくらいは掛かる気はしていたが、そんなことより俺は別の事が気になっていた。



「どうかなさいましたか殿?気分が優れないのなら暫し止まりますが」



「いや、大丈夫だ。あまり気にしないでくれ」



別に体調が悪いのではない。理由は俺等の後ろにあった。



「さあ!! 皆の者、もうすぐ陳留だ。勢いを切らさずに進むぞ!!」



「おぉー―――――――!!」



このように俺等三人の他に多大な野太い声が平野を駆け抜ける。そう、今後ろには二千人近くの兵がいるのだ。



何故こうなったかと言うと、徐州を出る前に遡る。張コウから少しでも仲間はいる方が良いと小さい声で助言を受けた。そしてそれに賛同した趙雲が札書きを城下に貼り出した所、これだけの人数が直ぐに集まった。これは趙雲が何度も俺が最初に出会った時のように山賊を追い払う等の行動が民の心を動かしたお陰である。



その人数の先頭に俺がいるのだ。落ち着かなくて仕方がない。


「……さ、衣笠様。う、馬には慣れましたか?」



相変わらず俺が苦手なようで隣にいながら俯き気味に話掛けて来る張コウ。少しは心配してくれているらしい。



「あぁ、これも二人のお陰だ。ありがとうな」



「……と、当然の事をしたまでです。気にしないで下さい。そ、それより今のご時世、う、馬に乗れないなんて珍しいですね」



「乗ったことが無いからな」



「……え?」



「……あ!?」



しまった。思わず普通に話してた。さてどうする……言い訳が見当たらないぞ。



「……や、やはり異国から来たのですね。だ、だから馬に乗れないとか……」



「そうなんだよ。俺のいた国には馬なんていなかったから乗ることもなくてな」



「……な、納得しました」



なんか助かった。経歴やどこから来たか何て聞かれたら返答出来なかったぞ。



「ふぅ、そろそろ着くな」



気を取り直して前を見るとそこにはたくさんの人間が集まっていた。



「よし、付近に野営の準備だ。早々に取りかかれ!!」



「おぉ―――――――――!!」



城の近くには既にたくさんの野営している陣があった。野営とは今で言うテントのようなものである。大きさは比べ物にならないけど……。つまり、それだけ兵が集まっている事となる。城に兵が入りきらないのだ。



「では殿、我々は城内へ向かいましょう。話はそれからです。張コウは残って野営の準備をしていてくれ」



その言葉に張コウはコクっと頷いて兵達の方へと去って行った。



「あれ、張コウは行かないのか?」



「彼女は話し合いの場が苦手なのです。ですから我々は二人です。さぁ、向かいましょう」



趙雲の先導に続くように俺は着いて行った。この城には既にかの有名な曹操や孫堅等がいるということだ。一体どんな人なんだろうか?期待と共に不安があるのも事実だった。



「ではここに軍の長にあたる人物の名前をお書き下さい」



衣笠 康平。巻物のようなものに名前を書くなんて生涯にあるだろうか?いや、無いだろう。



「では参りましょう。あの城内のようですよ」



城の門をくぐると異様な雰囲気に包まれていた。何だろうかこの殺伐とした空気は……。その空気に慣れないまま先に進み少し開けた所に出ると、そこが集合場所のようだった。



「この名家の袁紹こと、袁本初えんほんしょこそが盟主に相応しいに決まっているではないか!!」



「いえ、貴女のような優柔不断な者が盟主では、妾の兵が様々な意味で死ぬ。ですのでここは妾、曹孟徳そうもうとくが盟主に……」



「貴女こそ既に董卓とうたくの暗殺に一度失敗していると聞く。そのような人物に任せることは承知しかねる。ここはこの孫文台そんぶんだいに任せるのがよい」



「ならぬ。孫家など我が名家たる袁家に比べればまだまだ鳥に毛がついたようなもの。そんな奴に任せられるか!!」



……何かすげぇ名乗りあってるんだけど。



「なぁ趙雲。名乗り上げは大事と言っていたが、これは俺も混ざった方がいいのか?」



「いえ、ここでは無意味な気がしますのでお止めください」



ごもっともだった。



「ん?そこに居られる下朗。このままでは話が進みませぬ。下朗は誰が盟主に相応しいと思いますか?下朗ごときに聞くのは些か腹ただしいですが聞いてやらぬこともないですよ」



「ん?下朗……俺か?」



あれから少し時間が経ってからも、我こそが、我こそがと話が全く進まずどうしたものかと考えている矢先俺に気がついたのか、いきなり白羽の矢を向けてきた。



「貴方以外に誰が居るのですか下朗。話を交わすだけでも苛きますが誰が良いと思いますか?



優柔不断な袁家?私情に走る孫堅?そして才色兼備たるこの孟徳?さぁ、一目瞭然ですね」



「く、それでは我等がまるで能無しではないか!!」



「そう言ったのが聞こえないなんてめでたい頭ですね、袁紹」



「やめておけ袁紹。曹操はこのような発言しか出来ぬ愚か者。挑発に乗るだけ無駄だ」



この三人から選ぶとなるとまた面倒だな。



「趙雲、どう思う?」



「そうですね。私個人の意見としては曹操殿を選びますかね。やはり優柔不断には兵を任せられませんからね。そして私情に走る御方は無意味な戦まで起こします故、口は悪くとも冷静な曹操殿を勧めます」



趙雲は未だに口論をしている三人の顔を見比べながら話してくれた。史実なら袁紹となるところだが、これは趙雲の案をにしておくか。



「決まりだな。俺は曹操殿が盟主に相応しいと思う。」



その言葉に曹操がほう。と嫌な微笑み方をしながら此方を見て、袁紹は何だと!!と怒りながら此方を睨み付けて、孫堅は仕方がありませんね。と溜め息を吐きながら此方を見つめた。



「決まり、ですね。それでは盟主は妾が成らせて貰いましょう。下朗、ご苦労でした。下がってよろしいですよ」



そう言って興味無さげに手でシッシと追い払われてしまった。何だかいたたたまれないな俺……。



「……趙雲。戻ろう」



「しかし殿……」



「いいから」



俺は趙雲の手を取り、もと来た道を引き返した。ここで話しても意味がないと感じたからだ。もっと何かで目立たなければ対等の立場にすらつけない。これからのことをよく考えなければならない。



「殿、どうしてですか。あのような扱いを受けて何とも思わないのですか?私は我慢なりませぬ!!」



「ちょっと落ち着こうか趙雲。趙雲も初対面の時は似たことを言ってたよ」



その言葉に思い当たる節があったのだろう、しかしそれは……。と口を濁した。



「とある偉人曰く、どんな時も冷静であること。冷静さを欠いたときにこそ失敗があり、油断にも繋がる。だからこそ冷静であるべきである。分かったかい趙雲」



「はっ。心得ました。やはり殿は武の将より智の将に向いているようでございますな。今後ともご教授願いたいものです」



「はは、そこまでじゃないよ」



そう言いながらも少し嬉しかったりもした。



城内を出て少ししてから、そろそろ野営に着くなと思っていた俺は門の外の光景に驚いてしまった。



「何だこの数は……」



そう、そこには俺達の来たときとは比べ物にならない程の人間が集まっていた。



「……お、お帰りなさいませ。ど、どうでしたか?」



張コウが出迎えてくれ、城内での内容を伝えることにした。



「……め、盟主は曹操ですか」



「そういうことだ。それより一気に人数が増えたみたいだがどうしてなんだ?」



そ、それは……と俯いた張コウは近くにいた兵士を呼びつけた。



「はっ!!ご報告致します。先程、新たに袁術えんじゅつ殿、韓馥かんふく殿、孔融こうゆう殿、馬騰ばとう殿、公孫贊こうそんさん殿が参ったように御座います」



「それは一気に増える筈だな。分かった。ありがとう」



「はっ!!失礼します」



「殿、そろそろ儀式が始まるようです。参りましょう」



……儀式?



「天に誓う。


今、全ての人に選ばれたこの曹孟徳が、持てる力を全て発揮し、朝廷を救い逆賊を討ち、天下万民の苦しみを救うことを、ここに誓いましょう」



「おぉ―――――――――!!」



張コウに言われるがままついていくと、高台に登り俺らの前で盟主として誓いを立てる曹操の姿があった。言うならば開戦宣言みたいなものである。その声に周りの兵はもちろん、曹操以外の人間がその誓いに声を上げる。しかし、当然少なからず声を上げないものもいるがな。



「静まりなさい。


妾は今、総大将に選ばれました。そして盟主に選ばれた以上、逆賊を討つ為に全力を尽くしましょう。勿論功ある者は賞し、罪ある者は罰します。皆頑張りましょう。


さて、妾達はこれより北上して董卓と戦います。まず誰か先陣し、巳水関の関門を攻める者は決めます。


誰かおりませぬか?」



「それは私達に任せるがよい」



その声に皆が振り向くと、そこには孫堅がいた。



「ふむ、確かに任せられそうです。追っ手は此方から通達致します。一度解散と致しましょう。


解散」



「これからどうするおつもりですか?」



野営に戻り何をするかと思えば特にすることはなく空を眺めて通達を待っていると趙雲、張コウが俺に話しかけてきた。



「……こ、このままでは、そ、孫堅にしか手柄が渡りません」



「そのことなら大丈夫だ。問題ない。心配は曹操がどんな命令をしてくるかだ」



そう、孫堅の手柄より問題はこれからのことだ。しかしこの言葉に二人は、きょとんとしている。どうやら意味がわかってはいないらしい。それはそうだろうな。俺だけしか未来を知らないのだから……。



「何か策がお有りなのですね。御見逸れいたしました。それならば怖いものなどありませぬ。何なりと我等にご命令下さい」



「期待してるよ二人共」



「……は、はい」



二人を相手にしていると、奥から一人の男が此方へとやってきた。



「衣笠殿は此方に居られますか?」



「俺ですが何か?」



「盟主様がお呼びです。直ちに城内へお願い致します」



ついに来たな。



「わかりました。すぐに向かいます。二人はここで待機していてくれ。すぐに戻る」



そう言って、先ほどの城内に戻る。すると中には俺の顔を見た瞬間になんとも言えない顔をしている曹操の姿があった。



「あら、衣笠とは下朗のことでしたか。初めて聞いた名で、どのような人物かと思えば、面白味の無いこと……」



「そんな嫌みを言うために呼んだのでは無いでしょう」



「えぇ、確かにその通りです」



相変わらず人を小馬鹿にした話し方をしてくるな。苦手な人物かもしれない。



「このような場で下朗と話すのは癪なので簡潔に言いましょう。孫堅の後に付きなさい。共に北西から攻め要り巳水関を制圧すること。以上です。質問はありませんね、さっさと下がりなさい。後がつかえてます」



そう言うと一度俺の顔を見て、手元にある戦場の地図に目を通し始めた。



「承知しました」



さっさと去ろうと出口に身体を向けると後ろから声がした。



「名は覚えませんが一応、期待しておきましょう」



そこまで苦手じゃないかもしれないな。



「説明は以上だ。よし、孫堅軍に続くぞ」



「おぉ―――――――――!!」



俺の言葉に兵達は一斉に動き始めた。その間二人は少し浮かない表情をしていた、きっとの功績の事だろう。そんな心配はしなくてよいのにな……。そう、考えていると前から綺麗な毛並みの馬と孫堅殿が現れた。



「ふん、やはり衣笠とはお前か。一つ言っておく。お前を仲間だと思ってはいない。協力関係でもない。邪魔だから後ろに下がっていろ。以上」



俺を指差しながら喋ると直ぐに先頭の方へと走り去って行った。何か疲れるな。



「まぁ、どうにかなるだろう」



兵達を見ながらそう呟いた。



「殿!!攻めないとは本気ですか?」



あれから一日移動して巳水関の見える位置まで到着した。当然巳水関の前には既に敵兵が待機しており、数にして一万。大将に華雄の副将湖班がいると先見の話から聞いた。



そして、孫堅が攻撃を開始すると、俺は待機命令を出したがその発言に趙雲が異を唱えて来たのだ。



「あぁ、孫堅からも下がっていろと言われたし文句は言われないだろう」



その発言に趙雲は更に苛ついたのか槍を地面に突き刺しながら激昂した。



「見損ないました!!私共が功績の為に決死の覚悟でこの戦に臨んだと言うのに、殿は孫堅殿の言葉に従って下がっているだけとは……耐えられませぬ」



趙雲の叫びに周りの兵達も少なからず俯いていた。張コウに至っては俺の目をずっと見ていた。



「なら一つ聞こう。この戦、一番の功績は何だ?」



「それは、巳水関の制圧。そして華雄を討つことにございます」



「そうだ。そしてその為に俺達はここにいる。意味がわかるか?」



「いえ、おっしゃる意味がわかりませぬが……」



「つまり孫堅は、今の戦では、両方とも達成不可能だ。だから俺達はここに残っているんだ」



そして俺は今回の作戦を話した。



第三話 完

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