始まり
ずばり言おう。俺は三国志に興味はない。と。
そう感じたのは俺が子供だった頃の影響だと思う。俺の家には歴史の本、主に戦国時代の本がたくさんあった。
その中には、源平合戦や戦国時代(主人公は豊臣)応仁の乱などの日本史。俺はその中で戦国時代の本を小学生の頃から読み漁っていた。
本の大半は漫画で、非常に読みやすく、子供の俺にも十分わかる内容だったからだ。
しかし、その中で中国の話は大嫌いだった。その理由は、小説だったからである。
項羽と劉邦や三国志、三国志演義と全て小説。そして異様とも思える長さ。子供の俺には小説は敵でしかなく、その考えが今も続いていて、三国志はあまり好きにはなれなかった。
三国志は魏、呉、蜀の三つの国に別れていた為、後に三国志と呼ばれているのである。
国はたった三つしかない。それで何が面白いのだろうか?日本の戦国時代を見てみろ、百近い国がある。とても比べ物にならないスケール……日本史万歳。
俺には中国の書物の良さが全くわからなかった。兄貴がよく三国志について寝る前に話してくれたがいつの間にか俺寝ていたし、記憶など微かに残る程度しかない。
そんな俺が何故こんなことを考えているかというと、卒業研究の為である。
戦国時代に対する知識があまりにもあるが為に、何故か歴史物が得意というレッテルを貼られ、あるグループに引き込まれてしまった。
そのグループはというと、「三国志、蜀の運命編」という何も運命を感じないグループに入れられてしまい、調べるハメになった。非常にはた迷惑な事である。
そして今も深夜に関わらず、必死に三国志の始まりと言われている黄巾の乱から小説を読んでいる途中なのだが、全く進まない‥‥‥。
どうにかわからないものだろうか?明日にでも(厳密には既に今日)図書館でも行ってみるか。と考え布団に潜り込んだ。
夏休みだから人が多いかも知れないなと考えながら意識は飛んだ。
次の日、俺は準備して家を出た。
朝一に家を出て市内にある図書館へと到着。とても暑い……。
中へ入るとエアコンの涼しい風が館内を回っていた。やっぱり図書館はいいな。家にないエアコンに感謝しながら目的の場所を目指す。
そこは、地下にある歴史本置き場である。そこにならきっと読みやすい三国志があるのではないかと思ったからだ。
早速階段を降りて本を探し始めた。
「なかなか無いものだな」
さっきから三国志という名の文献を探しているが演義ばかりしか見当たらなかった。
三国志演義とは三国志のフィクション版のことで幻術とかばかり出てくるちょいと別物だ。
例えば、本来敵兵士を倒しました。となる部分が敵兵士を幻術にて追い払いました。みたいに変わっているのだ。これは史実とは異なるので今回は却下だ。
そうこう探している内に突然背後から声が聞こえた。
「貴殿は何を探しておいでじゃ?」
後ろを見るとそこには奇妙な少女が立っていた。体の特徴からすれば普通の少女だ。しかし、長い白髪そして時代錯誤ではないかと言うほどの深い紺色の美しい着物を着た変な迫力のある少女である。何者だろうか?
「何じゃ?」
「……いや何も」
じろじろ見ていたのを目で指摘されてしまい思わずたじろいでしまった。嫌な空気が流れる。その空気を払拭するかのように俺は今探していたものを聞いてみた。答えられるとも思えないけど……。
「三国志を探しているんだけど何処にあるのか君は知ってる?演義じゃないよ」
俺の言葉を聞くと不意に近寄ってきて頭を触ると少女はニヤッと笑った。
「有ることには有る。しかし貴殿はどれが良いかな?
面白くは無いが内容が深すぎる方。
面白くは有るが内容が浅い方。
そして面白く内容が深い方。
どれが良いのじゃ?」
本の事と突然の質問に驚きながらも、俺は質問に答えた。普通に考えればこれしかないだろ。
「最後のが読みたいな」
その言葉に更に面白そうに笑った少女はこう言った。
「多少大変になるがよいな?」
「ん?多分大丈夫だと思うからそれでお願いするよ。」
「ふふ、貴殿は面白いのう。今回は特別じゃ。貴殿の後ろにある本を読むと良い。設定は少し変えたがな」
後ろをみるとさっきまで気づかなかった金色の背表紙の入った本があった。こんな本さっきあったかな?取り敢えず本を手に取り、ありがとうとお礼を言うと、一頁目を開いた。
しかし中には何も書かれていない。これはどういうことだろうか?他の頁も白紙である。
「そこには貴殿の物語が書き込まれる。頑張るのだよ……」
一体どういうこと…と顔を本から上げるとそこには果てしない平地が広がっている。
「……はい?」
周りを見渡しても図書館らしきものは一つもない。あるのは手にある一冊の本のみだった……。
『今貴殿は遠く昔の中国、三国志の時代に来ておる。
信じられぬなら信じぬでも良い。真実じゃからな。
貴殿にはこの物語の主人公になってもらう。
言うなれば蜀の劉玄徳のような存在となる。貴殿はこれより自らの手でこの戦乱の世を治めて行くという感じじゃ。
ちなみに正史の場面ならば黄巾の乱が終わった辺りかのう。
場所は徐州の城に近い。まずはそこへ行くがよい。わかったな。
この物語は貴殿の物語じゃ。正史に基づく話ではない。お主の選択、行動で物語は大きく変わる。その結果は本に記録されていく故に頑張るのじゃぞ。せいぜい妾を楽しませてくれ。
困った時に見たら時には手を貸してやらんこともない。その時は本を開いてみよ。それではの。
ちなみにこの文書は読んだら直ぐに消えるぞい』
「どこのスパイだよ!!」
俺は誰に言うでもなく本を地面に叩きつけながら青空へと叫んだ。
「全く持ってナンセンスだ……」
意味がわからない。三国志の時代だ?黄巾の乱の後だ?まったく、どうなっているのだろうか。
本に目を通す限り嘘としか思えないが、周りの風景は図書館にある筈がない広大な自然。明らかに違う。
何かのゲームかこれは?取り敢えず情報が少なすぎる。徐州なる所に行かなければならないらしいし行けば少しは状況がわかるかもしれない。
俺は平野の向こうに見える建造物に向かって歩き出した。
……あれ?言葉とか通じるのか?
たくさんの不安を抱えながら。
第1話 完