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エピローグ・または冬の物語(下)
むかしむかし、フリューリングの街の近くに、
女が一人、つつましく暮らしていました。
女はたまに雨を凌ぐ旅人を泊めたりする以外には、
ほとんど外に出ることはありませんでした。
女はいつしか老いても、同じ事を繰り返していました。
あるとき、女は一組の旅人を家に泊めてやりました。
旅人は人形を友として、赤い髪に赤い目をしていました。
女は何も言わずに、旅人の話を聞いていました。
中でも興味を引いたのは、フリューリングの街が、
長い冬から解放されたという話でした。
女は頷きながら、ただその話を聞きました。
あくる日、旅人が旅立ってから、女は久々に外に出ました。
街の方を見ると、曇った空の向こうに太陽がかすかに見えました。
自分はなんて老いてしまったのかしらと、女は思いました。
女は、一人の青年と、自分の娘の事を想うと、
見慣れたはずの雪景色は、とても綺麗に見えたのです。
そして、女の目からひとつぶの涙がこぼれおちたのでした。