料理部の危機(2)
「失礼しまーす」
あやねが声をかけつつ職員室をガラリと開ける。
教室三つ分程もある職員室はかなり広く、先頭のあやねは担任の姿を探し、職員室の中をキョロキョロと見回す。
「あ、いた」
担任は職員室の後方、窓側の机にいた。三人は担任の元へと向かう。
「すいませーん、先生」
「あらぁ、どうしたの?」
あやねと姫子の担任はだいぶおっとりしていて、めったに怒ることのない先生だった。そのせいで、他の先生から頼りないと言われているが、生徒達からは親身になってくれると評判は上々である。
「実は……」
あやねは料理部の置かれている状況を説明した。
「あらあらまあまあ。それは大変ねえ」
「そうなんです。だから、先生に顧問になって欲しいんですけど……」
「あー、それは……」
先生は困った顔をする。
「残念だけど、先生もう顧問しているから、他の部活の顧問は出来ないのよ」
「掛け持ちとか……」
あやねが食い下がる。
「うーん。部活の創部に何故、顧問が必要ないか知ってる?」
「いえ、知りません」
あやねのうしろに控えていた姫子と花も首を横に振る。
「この学校って部活動が多いでしょ?」
「はい」
「昔は顧問を掛け持ちにしてどうにかしていたのだけど、そのせいで各部活に差が出来てしまったのよ」
「差?」
「例えば、危険を伴った部活には、どうしても先生がその場に長時間いることになるでしょう? そうなると、その先生が掛け持ちしているもう一つの部活には、あまりいけなくなってしまうの」
「ああ、そうなりますね」
「特に文化部がそのあおりを受けて、少し問題になったのよ。それで、顧問の掛け持ちは禁止になったの」
「禁止!」
「でも、そうなると今度は先生の人数しか部活が作れなくなってしまって、その問題を解消すべく、顧問なしでの創部が可能になったわけ。当時の校長先生が、生徒の好きな部活に入りたいという気持ちを尊重したそうよ」
先生は苦笑する。
「ということで、あなた達の部活の顧問にはなれないわ。ごめんなさいね」
「いえ……。ありがとうございました」
あやね達三人はしょんぼりしながら職員室を出た。
「先生側に掛け持ち禁止なんてルールがあったなんてな……」
あやねが悔しげに呟く。
「私の担任も部活の顧問やってます」
花が項垂れる。
「私達の一年の時の担任も顧問をやっているし、他にいきなり頼めそうな先生なんて知らないわ」
姫子がため息を吐く。
三人はまさかの事実に、打ちのめされていた。
「……こんなことになったのもあやね先輩のせいです」
「……何だって?」
あやねが花を見た。
「あやね先輩のせいで、姫子先輩との楽しい部活の時間がだいなしです! すっごく楽しみにしていたのに! 最悪です!」
「私だって楽しみにしていたんだ! 料理部が始められるまで一年かかったんだ! 一年だぞ! それをぐちゃぐちゃにされたんだ!」
「されたって何ですか! されたって! あやね先輩がしたんですよ!」
「いいや、されただ!」
あやねと花は一歩も譲らず怒鳴りあう。
「ち、ちょっと二人とも落ち着いて……」
姫子が止めようとするが、二人の視界には姫子が入っていないようで止まらない。
今にも取っ組み合いのケンカが始まりそうなその時だった。
「おーい、お前らよりにもよって、職員室の前で何をしているんだ?」
保健の飯島先生があやねと花の間に入った。
知的美人の見かけによらず力持ちの飯島先生は、あやねと花の首根っこを掴んで引っ張り、物理的に距離を取らせた。
それでも、あやねと花は唸り合っていたが、とりあえず静かになった。
「飯島先生ありがとうございます」
姫子が頭を下げる。
「いったい何があったんだ?」
「それが……」
「あ、ちょっと待て。話は聞いてやるから場所を移動しようか。職員室の前はまずいだろ」
「そうですね」
飯島先生はあやねと花を掴んだまま歩き出した。




