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料理部の危機(1)

 「申し訳ございませんでした!」

 料理部の部員であるあやねと姫子と花は、校長室で思いっきり頭を下げた。頭を下げた先には校長と教頭、生活指導の先生がいる。

 先生達の顔は厳しく、鋭い視線が花達に注がれていた。

「今後一切、料理部のコンロ使用を厳禁とします」

「えー! そんな!」

「火が使えなくなったら何も出来ないじゃないですか!」

 校長先生からのお達しに、あやねと花が顔を上げて不満を示す。

「小火とはいえ、火事を起こしたことには違いないのですよ! 廃部にされなかったのも校長先生の温情のおかげです! それをあなた達は!」

 花とあやねの言葉に、教頭先生は眉を逆立て怒鳴った。

「すいません! ほら! 頭下げる!」

 頭を下げっぱなしにしていた姫子が、あやねと花の頭を叩いてから頭を押し、強引に下げさせた。

「すいませんでした!」

「……すいませんでした」

「すいませんでした」

 姫子がしっかりと謝り、あやねと花は渋々、また謝った。

「本当に反省しているんですかね!」

 怒りの収まらない教頭先生は鼻をフンと鳴らす。それを、校長先生が手振りで抑えるしぐさをした。

「まあまあ、教頭先生。そのぐらいで」

 改めて校長先生が料理部の三人を見る。

「処分はまだあります。料理部には正式な顧問がまだいませんね?」

 花達の通う学園は少し変わっていて、部員を三人揃えれば部活を新たに作ることが出来る。その為、顧問がいない部活が多く、料理部にも顧問はいなかった。

「はい」

 花とあやねの頭を押さえたまま、顔を上げた姫子が校長先生に答えた。

「これからは料理部の活動を監督する顧問を付けることを、部活存続の条件とします」

「分かりました」

「期限は今日を含め三日。それまでに顧問を見付けて下さい」

「三日!」

 姫子が驚いた顔を見せると、教頭先生の目が姫子を睨み付けた。

「何か問題でも?」

「い、いえ。ありません……」

 姫子は口をつぐんだ。

「顧問を見付けるまで、料理部の家庭科室使用は禁止です。たとえ顧問を見付け、料理部が再開しても、このような問題を起こさぬようにして下さい。もう帰っていいですよ」

 花達はもう一度頭を下げて、校長室を出た。廊下を歩く三人は暗い足取りだ。

「コンロ禁止とか料理部としてどうなんだよ……」

 廊下の右側を歩きながらあやねはため息を付いた。いつもは元気な笑顔を振り撒くあやねの顔も今は曇っている。後ろで結んであるポニーテールも心なしか元気なく垂れ下がっているようだ。

「ホントですよ。料理部で火が使えないって致命的じゃないですか」

 姫子を中央にあやねの反対側を歩く花もため息を付く。可愛らしい小さい口を尖らせ、二つ結びにした胸元まである髪の先を弄る。

「せっかく料理部を始められたっていうのに……」

 料理部は創部してからまだ半月しか経っていない。あやねと姫子が一年生の頃は部員が三人揃わず、花が入学してきてようやく三人になり、料理部として活動を始めることが出来た。

 火事はそんな料理部の初めての料理で起きたのである。

「あやね先輩が気を付けていないから……」

「はあ? 花がぶつかってきたのが悪いんだろ」

「いいえ、違います。あやね先輩がコンロに油を倒したのが悪いんです」

「花がぶつからなければ倒さなかった!」

「倒したあやね先輩が悪いんです。それにぶつかったのだってあやね先輩が悪いんじゃないですか」

「何でだよ!」

「私が道具を取ろうとしたら、そこにあやね先輩が割り込んできてぶつかったんじゃないですか。あやね先輩の不注意が悪いんです」

「逆だ、逆。あたしが調味料を取ろうとして花が割り込んだんだ」

「違います。割り込んだのはあやね先輩です!」

「いいや、花だ」

「あやね先輩です!」

「花だ!」

 話しているうちにヒートアップしたあやねと花はもはや怒鳴りあいになっていた。廊下に二人の声が響く。今は放課後だが生徒がいないわけではない。通りかかった他の生徒がギョッとしてあやねと花を見た。

「いいかげんにしなさい!」

 真ん中にいた姫子が二人の頭を一発ずつ殴った。

「あなた達二人ともが原因なんだから相手のせいにせず反省する!」

 おしとやかでキレイな長い黒髪がまるで日本人形のようだとよく称される姫子だったが、ハキハキと喋る快活な性格をしている。

 普段は外見通りの生活を送っているが、あやねとは気が合うせいか素の姿を見せていた。

「……はい」

「……わかりました」

 あやねと花は姫子に怒られ、しょぼんとしておとなしくなる。

「過ぎたことはもうどうしようもないわ。火についてはおいおい考えていくとして、問題は顧問の方よ」

「顧問? ああ、三日以内にってやつか?」

「そう。急いで顧問を探さないと……」

「大丈夫だろ。すぐに見付かるって」

 あやねはあっけらかんと答えた。

「そうは思えないけど」

「大丈夫、大丈夫。とりあえず担任にたのんでみよう」

「そう……ね。接点のある先生ってあまりいないから担任にお願いするのが一番無難かしら」

「さっそく行こう!」

「受けてもらえるといいのだけれど……」

 三人は職員室に向かった。


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