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そんなたわいのない会話を続けているうちに、公国の東側にある国税管理局へとついた。石造りで3階建てのこの建物は国の税を一挙に管理する場所であり、国の見栄を保つためなのかどうかは知らないが、見た目も中もかなり立派に作られている。入り口の時点で人が通るにはあり余る。ここが目的地である。
そんな場所に、レスカとともに入っていく。吹き抜けになっている一階には国に税を納めるためのカウンターやら、その税収納するどデカイ金庫などがあるが、今はそのどちらにも用はなく、俺が向かった先は、市民権に対する納金カウンター。ありていに言えば、奴隷の買い戻しに関するカウンターだった。
そのカウンターの前には人は並んでおらず(というのも普通の場合市民権に対して金を納めるという状況が少ないことにある)、そそくさとカウンターの前に行き、カウンターに座る美人のお姉さんに声をかける。
「すまない、奴隷の買い戻しの手続きがしたいんだが...」
「...この時期にですか? 失礼ですが、お名前を伺っても?」
この時期?
そう頭の中で疑問に思うが、少し思案し、あることを思い出し、訝しまれた理由に納得がいった。
なんてことはない、今が実りある収穫の時期だからだ。その時期だからこそ、輸送やら要人の警護、金の流通も頻繁になり、魔物も活発活動する。朝にアーネットが忙しいと言っていたのはこの時期だったからであり、このことに気づかない自分がいかにニートまっしぐらか。恥ずかしい。
だからこそ、この忙しい時期に奴隷を手放す人がいなければ、奴隷もこの時期は稼ぎ時なわけであり、一旦、奴隷主から解放されてから職を探すということよりかは、そのまま奴隷であることが多いのだ。
故にこの美人なお姉さんは、こちらのことを少々訝しんでおられると。ふむふむ、来る時ミスったねこりゃ。だが、そんなことは法的に買い戻しに関係することではないので、このまま手続きを済ませるために潔く名乗ることにした。
「ラーク・ラッキーストライクという一応商人の...
「...え? すみません...もう一度お名前を伺ってもよろしいでしょうか...?」
ちくしょう、ここでも普段他人との会話をしていないニート故の弊害が...!!
「ラーク・ラッキーストライク...」
「ラーク・ラッキーストライク様ですか!? 大変失礼いたしました! 今、上の者を連れて参りますので少々お待ち下さい!!」
そう言いながら、美人なお姉さんは汗をかきながらカウンターの裏へとすっ飛んでった。いや、買い戻しの手続きなら上の人呼んでくる必要ないでしょうに。
するとカウンターの裏からハゲ散らかしたおっさんがすっ飛んできた。お姉さん!戻ってきて!お姉さんがいい!僕、お姉さんがいい!
「お父様?」
隣にいるレスカの微笑が氷のように冷たい。そうですね!美人は隣にいますもんね!
「お待たせいたしました! ラーク様! 本日は買い戻しの件でよろしかったでしょうか?」
「ああ、アーネットという奴隷の買い戻しについてお願いしたい。できれば、市民権の証明書の発行も。」
「かしこまりました! 書類はこちらになっております!サインだけで結構ですので!」
「? 記入する項目と提出する書類があったと思ったが?」
「いえ! 今回は冒険者として名高いアーネット様と信用の高いラーク様なので面倒な手続きは一切必要ございません!」
「それはありがたい。」
これは本当にありがたい。いっつもあの手続きは面倒に思ってたしなぁ。
サインをぱっぱと記入し、カウンターへと返す。
「たしかに! それでは買い戻しの金額の方がこちらになります。」
「了解。レスカ。」
「はい。」
そう言ってレスカが、一つの書類を出す。所謂、小切手だ。
「承りました! 市民権の証明書は、責任を持ってラーク様の屋敷まで輸送されるよう手配致します!」
「助かる。手続きが早く済んで本当にありがたい。」
「いえ! アーネット様の市民権の獲得本当におめでとうございます! 手続きは、このバアク! バアク・バラウムが勤めさせていただきました!ぜひまたご入用の際は、このバアクにご相談下さい!」
「あ、あぁ...。ありがとうバアクさん。ところで話は変わるが、さっきの受付の美人なお姉さんの名前を...
「帰りますよ、お父様。」
レスカの冷たい微笑みぃ! だが、負ける訳にはいかない。何故! なぜ、出会いを求めることがいけないんだ! ピースだって結婚するんだ! 俺だって出会いくらい求めたっていいじゃないか!
「ええぃ!止めるなレスカよ! お前だってお母さんがいたら嬉しいだろ! もしかしたら、お前の将来のお母さんが今ここに...
「いません。帰りますよ。」
「あ、はい。」
無理、怖すぎた。