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「それで、いいから本題入れよ」
正直、付き合いきれなかった。聞くに堪えなかった。茶番の押し付けが過ぎた。
「なんのことだか?」
「いっくら考えても可笑しいだろ、そんな親馬鹿如きで国の偽造文書作れるか、大体、俺らはここの門をぶっ壊して侵入してきたんだ。それなのに、あのピースの落ち着き様は何だよ。あいつが明らかに警戒してないこと自体が不自然すぎる」
クール公爵は笑みを浮かべる、手に持ったグラスがゆらゆらと左右に揺れる。一つ息をするように、彼は腰を落ち着かせた。
「焦るな、食事の準備を今させているところだ」
ずっと違和感がある、この部屋に入る前から、彼と話している時から。
何故俺を挑発する、何故、ここまで慌てない。彼我の戦力は明らかだ。国税が何故、いくら公爵家といい、その嘘に加担する。
「言っただろ、ラッキーストライク。状況は二転三転すると、加えて言ったな、全部嘘だと」
「だから、どこまでが嘘でどこからが本当だ」
カッっと音がなる。机の上にナイフが刺さっていた。それは、クール公爵が突き刺したものだ。
そのナイフをクール公爵は動かす。動かした先に文字が刻まれていく。
『先ほどの言葉信じる。ヴィラを救ってくれ』
まっすぐクール公爵はこちらを見据えていた。その眼は決意を滲ませ、泣いていた。
その眼を見て、出来事が繋がる。
ラッキーストライクそのものに喧嘩を売るような手紙、捺印。俺たちがここに集まったのは誘導、なんのため、戦力を集中させる、人払い。ピースが何故、何も反応しない。ヴィラ嬢を救え、嘘、偽物。
「一つよろしいか、クール公爵」
俺は呼び止める。
「二人の結婚式まで、時間はどれくらいかかる?」
毒をもった? 誰に、誰が? クール公爵だけに用意されたワイン、俺にはないワイン。
「すぐにでも始められる、そうだな、3時間後でも可能だろう」
「なるほど、了解した」
彼は、ワインをゆっくりとテーブルの上に置く。毒々しいまでの色をした、その赤いワインを。
「しかし、心臓に悪い、あの手紙はお茶目がすぎましたよ、クール公爵」
「いや、年を取ると刺激が欲しくてな。あの場合は、仕方がなかったのだよ」
「それはあまりに命を張りすぎです、いくらお嬢さんのためでも」
「君には一目会いたかった。有名だからな」
そう言いながら、俺は思考を纏める。リミットは三時間。決して長くない時間に自然と身が震えた。
クール公爵は、先ほど刺したナイフを、削った文字に叩きつけた後、ゆっくりと着座する。
「それまで、一緒に食事でもしようか、ラッキーストライク殿」
そう呟く、クール公爵の口から一筋の赤い線が走った。この茶番が終わるまで時間はそうなかった。