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「どうも、お招きいただいたみたいで。」
そんな軽口を言いながら、俺は大広間へと入っていった。
大広間には権力、富を誇示するかのように、さまざまな骨董品やら絵画なんかが飾られていた。大広間の中心には30人は座れるんじゃないかと思われるテーブル。その上座にあたる場所に一人の男が座っていた。顔のほりの深さが蝋燭の明かりに照らし出され、顔に影を作っている。座ってはいるが、長身であり、細見であることは察せられた。テーブルに肘をつき指を組み、こちらを鋭く見るのは、間違いなくクール公爵その人だった。
「いや、来ていただいて何より。立ち話もなんだ、遠慮なく掛けてくれ。」
重く低い声が木霊した。全く嫌になる。貴族には威厳のかけらもないような奴らがいっぱいいるっていうのに、ここにいる貴族は本物の貴族だ。どうして俺に突っかかてくる貴族は小物みたいな貴族がいねぇんだ。
「じゃあ、失礼して。」
そういって腰かける。座った椅子が場に不釣り合いなくらい、きぃっと木のしなる高音をかき鳴らす。
「さて、ラッキーストライク。手紙は読んでいただけたかな?」
「クール公爵、戯れが過ぎる。そうじゃなきゃ俺は今ここに座ってはいない。」
「はは、確かにそうだな。失礼した。」
この野郎、本当にむかつく野郎だ。何が可笑しい。今すぐぶっ殺してやりたいが、それよりもいまは、
「焦っているように見えるな、ラッキーストライク。そんなに気になるか、“飼い犬”が。」
「ははは、面白いことをいうのですね。クール公爵も。そんなご冗談が言える方だとは思ってもいませんでした。いやはや、貴族の方は堅い方ばかりだと思っていましたが、なんて愛嬌のある方なんだ。公爵という地位もそのようなご冗談を言って勝ち取ったものなのですかな。だとしたらこの国は本当に冗談が好きだ。冗談が好きすぎて、国税の管理局まで冗談を言うみたいで。なんとなんと。本当に面白くってつい笑ってしまう。その口から発せられる言葉がついつい面白くて。
だからあんまり嗤わせんなよゴミ野郎、その薄汚い口を開いていいのは俺の質問に答える時だけだ。」
知りたいのは、ピースがどうなっているのか、ヴィラ嬢はどうなっているのか。何が目的かだ。
「口調が荒いな。さすが犬どもの飼い主だ。犬をそうやって躾けてきたのか。」
「黙れゴミ野郎、質問に答えろ。ピースとヴィラ嬢はどうなってる?」
「どうなってる? 随分な聞き方をする。まぁいい、そうだな、質問に答えよう、どうもなっていない。」
「ふざけるな、言葉遊びをしにきたわけじゃない。国税管理局の捺印まで使って何をしようとしてやがる。」
クール公爵はテーブルの上にあったワインを一口含み、飲み込む。香りを楽しむように、深い味わいを楽しんでいるようだった。
「書いたはずだ、ラッキーストライク。寄越せ、と。」
「ゴミ野郎、どっちが有利かその出来の悪い頭でも理解出来るように教えてやろうか?」
「有利、不利で状況を図ろうとするのは商人の悪い癖だ。事実、状況なんて言うのは簡単に二転三転する。大体、君はそもそも有利、不利なんて段階にいない。圧倒的な力で全て押し通すだけだ。逆に教えてやる、君が今やろうとしていることはチェス盤をひっくり返して、相手の駒を叩き壊して、自身の勝ちを宣言するのと一緒だ。まかり通らないよ、力だけでは。」
今の言い分を自分の中で飲み込む。なんだ?俺がこいつとやり合うと不利になる要素があるっていうことか?
いや違う、そもそも公爵の家に乗り込んだ時点で国からの制裁は少なからずある。罰則にビビッて手出しできないと? まさか、そんなこと俺が気にしてるなんて思っちゃいないはずだこの男は。
ピースのことか? あいつは今、そんなに危機的状況にいるのか?
違う、この男が言いたいのはそんなことじゃない。戯言だ、こんな言葉は。
なんだ、この違和感は?
「さて、ラッキーストライク。君の質問に再度答えようか。状況だけでも説明しよう。」
ゆっくりとワインに再度、口をつけた公爵はワインを揺らしながら、言った。
「なに簡単だよ、うちの娘に毒をのんでもらった。君のところの犬には、こう言った。無様に死ねば、解毒剤を娘に飲ませると。」