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ラークの名のもとに  作者: 由比ケ浜 在人
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ゴルバ、レスカを外に配置させた後、俺はそのまま何人かをつれて、屋敷の中へと足を踏み入れていた。俺は隣をマルボロに任せ、あとは全員、幾らかばかり後方においていた。


「親父、変だ。静かすぎる。」

「ああ、分かってる。」


マルボロがそう俺に進言した。

屋敷の中は静寂を保ったままだ。それは可笑しい。こちらは正門を破った上に、堂々と屋敷に踏み入っている。


「親父、付け加えて言うぜ。“罠”も一切ねぇ。」

「やはりか、どうも“招かれている”みたいだな。」


濃紺色の絨毯が敷かれた通路には、いくつか扉もあり、そこからも音は一切しない。通路の上を見れば、マギアを使用した灯りが通路を照らしているだけだった。罠の可能性を考えたが、それにしては人も物もなさすぎる。


すぐにでも公爵が所持している兵が出てきても可笑しくはない。どう考えても正門を突破した時の音は、この屋敷にも響いているはずだった。


だというのに、こちらは障害という障害すらなく、クール公爵がいるであろう場所まで後わずかという位置まで来ていた。


明らかに誘わている。大広間まで。


「どうする親父、このまま俺らが斥候として先に大広間に突入するか?」

「いや、どうやらその必要はないみたいだ。」


大広間へつながる扉が不自然に開いているのが遠目で確認できた。

どうせ、侵入したことも、大広間に来ることも分かっているのだろう。だったら、ここで人員を分ける必要は一切ない。


マルボロは隣で指示を待っている。そのマルボロに俺は一つ質問を投げかけた。


「マルボロ、俺がここまで強行に出ている理由が分かるか?」


今回ここに至るまで、旗を取り出し、動けるものを結集し、なおかつ騒ぎを起こした。本来、公爵を打つだけだったら、隣にいるマルボロ一人動かせば、実は事は済む。


質問を投げかけられたマルボロは、顔を一度こちらに向け、言葉を選んでいるかのように紡ぎ出す。


「・・・実はそれがイマイチ掴めねぇ。救出すべき二人はもう相手の手の中だ。取るべきは隠密、ひいて言うなら暗殺だ。ここまでド派手にことを構える必要があったのか、何故そうしかったのかっていうのが本音だぜ。」

「だろうな。お前ならそう考えると思ったよ。」


隣にいるマルボロはそう言いながら、前方の開かれた扉を凝視していた。灯りがついている。

明らかに誰かいる大広間のその先を。


「マルボロ、お前は優秀だ。粗暴に見えて、思慮深い。そして何より、“俺の言葉を鵜呑みにしない”。自分で考えることが出来る人物だ。」

「・・・あんまりいい気はしねぇな、その言葉は。俺は親父に忠誠を誓っている。その忠誠を疑われているみてぇだ。」

「そうだ、お前は確かに俺に尽くしてくれている。だが、それは他の兄弟たちとはまた違うものだ。あいつらは俺に心酔している。恐ろしいことにな。」

「・・・すまない親父、アンタが何を言いたいのかわかんねぇ。」

「いや、だからこそ、俺はお前を信用しているという話だ。忠義と狂信は意味が違う。お前だけだよ、不満が顔に出ていたのは。」

「・・・。」

「それでいいんだ。その気持ちを忘れるな。」

「・・・見透かすようなこと言うんだな。」

「当たり前だ、俺はお前の“父親”だぞ。だからお前を隣に置いている。」


お前の望みもな、知っているんだよマルボロ。そして、お前にはその資格と、才能がある。


「して、親父はどうするつもりだ?」


マルボロはため息交じりに言葉を吐き出した。有事の際でも、こいつの砕けた言い方は治らない。俺はこいつのそういうところが堪らなく好きだった。


「俺がここまで強行に出たのも訳がある。

 一つ、あちらには確かにこちらが救出すべき目標がいるが、それについては深く考慮する必要が全くないという点。クール公爵は自分の娘を溺愛している、手はかけない、そうなってくるとピース相手に虚勢ははれても所詮コケ脅しだ。ピースが相手に殺されるなんてことはない。そもそもピースが捕まること自体が可笑しい。」

「そうなってくると親父が家で言ってたことと違くないか、令嬢を人質にピースを捕獲したとか言ってたろ。」

「俺はその可能性を言っただけだ。恐らく全く違うとは思っていたが。お前も疑問に思ってはいただろうに。ましてや、ピースが“人質をとられたくらい”で捕まる人間か? あいつなら秒で助け出して、目標を殲滅するくらいのことはやってのける。」

「やっぱり嘘かよ、この狸親父め。アンタを心酔している兄弟、姉妹を利用するような真似しやがって。それで?本題は?」

「二つ目の理由が本題だ。国税管理局の出方がみたい。クール公爵がその方面にめっぽう強いことは知っている。だが何故だ? 俺らを敵に回してまで何故加担する?」

「結局そこか。その理由を確かめたいってことか。だから俺が隣か、納得したぜ。」

「ああ、お前以外、俺を“単身”で敵のところに送りだしてくれる奴がうちにはいない。」

「その信頼を喜んでいいやら、悲しんでいいやら。」

「本来なら悲しむべき現状だ。お前にだからはっきり言うが、俺は四六時中“監視”されているのと変わりない。それが例え絶対裏切らない味方だとしてもだ。」


マルボロは俺の言葉を噛みしめているようだった。そして何処か諦めたように吐き出す。


「行って来いよ親父。兄弟、なんとか抑えてみるわ。レスカとゴルバを外に置いておいてくれて助かるぜ。大人数で招集かけた意味も分かった。この構図にしたかったんだろ? 俺が親父の隣にいても可笑しくないように、そして、親父が一人になれるように。」

「恩に着る。」

「言うなよ、思ってもない癖に。」

「それでも言うさ。俺はお前の親父だからな。」

「ういうい、いってらっしゃい。」


そういうとマルボロは、脚の付け根に固定していた。グリップ付きの筒状の武器を二つ取りだし、それぞれ両手で構えた。魔銃と言われる武器だ。


「あ、親父。言っとくけどよ、俺は親父のこと大好きだぜ。それだけは間違いない。」


それだけ言うと、彼は幾らかばかり後方にいる兄弟に向き直った。それを確認し、俺も大広間の扉へと歩みを進める。


「そんなこと、知っているさ、マルボロ。」


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