表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラークの名のもとに  作者: 由比ケ浜 在人
10/17


「よかったねヴィラ、これで父さん公認だ。君との愛は永遠だよ」

「嬉しい、これでなんの憂いもなくピース様と一緒にいれる」



おい、誰か教えてくれ。息子とその嫁さんが目の前でいちゃつき始めたときの父の適切な対応を。いや、羨ましいとか、そんなんじゃないよ? ただね、やっぱりさ、こう、ね? あるじゃん? ほらあれだよ、あれ。目の前に俺もいることだしさ。自粛してほしいんだ、そういうの。嫌じゃん、こう、なんか人のいちゃついてるところ見るの? 分かる? そう嫉妬じゃないんだ。いや、再三に渡っていうけど、羨ましいんじゃないよ。そんなんじゃない、だから、違うって。へへへ、さて、


「ピース」

「うん? どうしたの父さん?」

「とあるところの神は、右の頬を殴られたら左の頬を差し出しなさいという教説を残しているんだ」

「へぇ、結婚に関すること? もしかして、夫婦喧嘩でも男は手を挙げてはいけないとか?」

「そんな! 私とピース様が喧嘩するなんてこと絶対にございません! 安心してくださいラーク様!」

「いや、違う違う。結婚するにあたっては、親から顔面をボコボコにされなさいというありがたいお言葉なんだ」

「その教説物騒すぎやしないかい父さん!? どこもありがたくないよ!?」

「うんうん、御託はいいから、両頬を差し出しなさいな」


父さんが精一杯の愛という拳を叩きこんであげるから。



なんてあまりにも醜い俺の一面が出てしまったこと以外は、ヴィラ嬢との会合は滞りなく終わったと言ってもいい。その後は、和やかな雰囲気で二人の出会いや様々な出来事を聞かせてもらった。はっきり言って、一つの本が出来るくらい壮大な出会いであり、ラブストーリーであるのだが、それは割愛させていただく。正直な話、羨ましいとも思ったが、その話自体に嫉妬することはなかった。転生する前に、あっちの世界でよく聞くような夢物語。それを実体験として聞いたのだから、なんとも心躍った。魅力的な話であった。それゆえ苦難もあった。だから、そんな話は美談として終わるべきなのだ。今更二人の出会いがどうのこうのとか、それは今はいい。結婚する二人にとっては、その話は未来に進んだ時に、過去を思いだしながら、子供に囲まれているときに話してあげるべきことだ。そんなふうに俺は思う。

「さて、これ以上ヴィラ嬢の時間をお取りしてしまうのは申し訳ない。ピース、クール公爵の家にも行かなければならないだろう? ヴィラ嬢を送ってさし上げながら、赴いて、公爵にお伺いできる日時を聞いてきなさい」

「はい、父さん」


既に夕方に差し掛かろうという時間であった。これ以上、二人を引き留めておくのも忍びない。


「ラーク様、本日は楽しい時間をありがとうございました」

「恐縮だよ、ヴィラ嬢。こちらのほうが多いに楽しませていただいた」


偽りのない本心を言った。本当に楽しかった。俺の言葉にヴィラ嬢は花が咲くような笑顔で答える。


「ピース、ほら、突っ立ってないで先に表に出て、馬車を回してきてあげなさい」

「? 馬車ならずっと家の前に止めて」

「いいから」


存外にしっしと、はよいけとピースを促す。頭にクエスチョンマークを浮かべながら、それでもピースは俺の言葉に従って部屋を出た。


そんな姿をヴィラ嬢は微笑まし気に見ていた。


「ヴィラ嬢、ピースはな。冒険者としては最高位に位置して、世界でも冒険者の名前をあげろと言ったら、あいつの名前が出てくるくらいには強い」

「はい、存じ上げています」

「ただね、私からすればそれでも心配になってしまうんだ。肉体的には強くても、精神的には決して強いといえる人物ではないんだ。」


そこで、私はヴィラ嬢の方を向き、頭を下げた。


「どうか支えてやってあげてはくれないか。もう何も法的に繋がりもなく、血の繋がりすらありはしない、そんな男が父親としてしてやれる最後の願いだ。よろしくお願いするよ」

「お顔をお上げください。ラーク様」


ヴィラ嬢はまっすぐとこちらを見る。

「先ほども申し上げました通り、私はピース様をお慕い申し上げています。これは未来永劫変わりません。そして、女は惚れ込んだ男を獅子に仕立てます」


こいつはまいった。中々どうして剛毅な女性だ。


「ならば、俺の願いは測らずも叶うか。フフ、すまない。余計な世話だったかな」

「いえ、それだけピース様が素敵な方というだけです」


そう言って、ヴィラ嬢は微笑んだ。



その姿が印象に残っている。



だからこそ、翌日俺のもとへ届いた手紙は腸が煮えくり返るものだった。



『ラーク・ラッキーストライクへ 


 汝の有する奴隷 ピース がわが娘 ヴィラ を誑かしたり。この奴隷、国に問い合わせたれば買い戻しを行われた事実はなく、また市民権を有していないもの。許すまじ。身柄を拘束し、幽閉。また、誑かされたヴィラは正気を失っており、公に身を曝せなくなり。この損失、汝の有する奴隷全てを譲渡することで償うべし。これは、国の公的文書と変わらず。捺印にて確かめられたし。


クール公爵』


「アーネット、招集をかけろ」

「全員揃うのに最短でも1日かかります。父さん」

「半日だ、それで来れない奴らはいい」

「すぐに」

「叩きのめす」

「御心のままに」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ