五章 [17]
* * *
「賢クン、君は廣に桃源の情報を流してたんだよね?」
「…………」
「どんな情報?」
「…………」
「この本に書いてある数字って、『五十二、三十三、八十二、四十、〇』って、禁軍の各部隊から前線に派遣されてる人数だよね。索冥、麒麟、炎狗、角端、聳孤の順で」
「…………」
「君は生まれも育ちも源京だよね。なんで急に廣に寝返ったりなんかしたの?」
「…………」
禁軍の作戦本部には、王宮内にいた禁軍将軍が臨時に集められ、内通者への尋問が行われていた。
しかし、志閃、飛露、泉蝶の三人に囲まれた周賢はうつむき、ピクリとも動かない。内通していることに対して、肯定も否定も行わない。
「貴様、なんとか言ったらどうだ!」
さっそくしびれを切らした飛露が周賢の襟首をつかむ。無理やり顔を上向かせ――。
「なんだこいつは」
飛露は息をのんだ。
その目はうつろ。意志の欠片も感じられない。口の端にはわずかにあわをふいていた。
異変に気付いた志閃が、相手に仙術を使わせないためにかけていた術を素早く解く。それでも、周賢の気は小さく、鈍く、よどんでいた。
「賢!」
志閃が鋭く彼の名を呼ぶが、やはり反応はない。
「泉蝶ちゃん! 秋夕ちゃんを呼んできて! 大至急」
「わかったわっ」
いつもののんびりさが消えた志閃の口調に、泉蝶はすばやく身をひるがえす。目指すは医務室。そこに詰めている仙術治療に長けた女性医務官だ。
「飛露、手伝って」
志閃は白目をむいて激しく痙攣する周賢の体を素早く横たわらせた。
その額と手に触れ、彼に自分の気を流し込む。しかし、彼のよどんだ気は粘度を持っているかのように重くうねり、その乱れが逆に志閃の気を乱す。
「……。やば……」
呻くようにつぶやく志閃の手に、ひやりと冷たい飛露の手のひらが触れる。
「飛露の気って、やたら重いよね」
水のような重量感のある飛露の気が、周賢の乱れた気を押しのける。
しかし二人ができるのはそこまで。治癒向けの気を持っていない二人がここまで乱れた気を治すには、途方もない時間がかかる。これ以上彼の気が乱れないように抑えつつ、仙術治療を専門とする秋夕の到着を待つしかない。
ものの十分もしないうちに駆け込んできた秋夕も、彼の治療にはひどく難儀することになるのだが……。




