五章 [16]
「賢クン、悪いけど、ちょっと作戦本部まで来ようか?」
やさしく言いつつも、志閃の纏う気には思わず身をすくめてしまいそうな圧力があった。
志閃が周賢の腕をとる。
その瞬間、周賢が掴まれていない方の手を翻した。バチンという激しい音に、成り行きを見守っていた泉蝶は思わず身をすくめてしまった。
「いやぁ、無駄無駄」
周賢の手に握られた札が、灰になって崩れてゆく。
その先には、札を指に挟んだ志閃の手があった。彼の術が周賢の札をボロボロにしたのだろうと言うことは容易に察せる。
泉蝶は目の前の周賢とその間に半身を割り込ませている長身の志閃を見比べた。
「俺じゃなくて、仙術に疎い泉蝶ちゃんを狙うのは許せないなぁ」
いつもお気楽な志閃には珍しく、その声にはかすかに怒りがこもっていた。
「飛露とか相手ならわかんないけど、自分の部隊の部下にやられるわけないっしょ? 俺は索冥軍の中で一番強いから将軍やってんのよ?」
その通りだ。やや性格と態度に難のある志閃が禁軍将軍と言う偉い役に就いているのは、彼が強いからに他ならない。
同じように王紀は容姿と家柄、赤覇は人望、飛露は忠誠心と、他の要素があるもののその部隊で最強に近い戦闘力を持っている。
一方の泉蝶は、男性に負けない腕っ節はあるものの最強とは言えない。後宮勤務の多い護衛部隊は女性将軍の方が都合が良いということで選ばれたに過ぎない。少なくとも泉蝶はそう思っている。
「賢クン、隠してる武器と札ももらおうか」
志閃は手際よく相手の武器を奪い取り、隠し持っていた札もすべて回収している。
「さ、来てくれるよね?」
軽く首を傾げて問いかける志閃に、こんどこそ周賢は素直に従った。




