五章 [14]
「それより、どうなのよ? そろそろ禁軍拠点が近いんじゃないの?」
そう話を変えたのは、これ以上吹き出物の話をしたくないからだろう。
「そだね。賢クンはちょうど自室を出たね。本を返しに行くみたい。このまま偶然を装って鉢合わせしちゃおう」
志閃は少しだけ自分の握りこんだ宝玉に意識を向けてからそう答えた。
「……きれいな石ね」
この宝玉による術が志閃の疲労の原因だと先ほど聞かされた泉蝶は、やや心配そうな顔をしつつもそう言った。
「この光が見えんの?」
宝玉の中には、高濃度の気がたまっており、それが時折キラキラと星のような淡い光を放つ。光の粉が散る隙間を常に流れる気の影響で、その色は淡い緑から深緑まで刻々と変わっていく。
「ええ、緑の空に星が浮いてるみたいだわ」
気が感じ取れない泉蝶には、この宝玉にたまった気も見えずただのガラス玉のようにしか映らないと思っていたのだが……。
「これだけ密度を増した気なら見えるわけね」
志閃は一人そう納得して、懐から小さめの札を出した。すっと自分の気を込めると、すぐに新芽のような鮮やかな緑に染まる。志閃は、それを泉蝶に見せた。
「これ何色?」
「目にまぶしい緑ね」
これも見えるようだ。
「これ、俺の気の色ね。仙術に疎いって言っても、全く気の存在を感知できないわけじゃないのね」
「『気』って言うのはわからないけど、仙術で出した音や光、熱とかは感じるわよ。仙術の攻撃でけがもするし」
「そだね。気が見えないだけで、気の影響は受けちゃってるんだよね」
「そうよ。厄介だわ」
泉蝶はやれやれと言うように首を横に振ってみせた。それでも模擬戦中は勘と経験から仙術攻撃の多くをかわすのだから彼女はやはりすごい。
「そんな泉蝶ちゃんに、これプレゼント」
志閃はそう言って、先ほどと同じ札を出した。真新しいそれを、泉蝶の手に握らせる。
「『気を込めてみて』って言っても難しいだろうから、俺が泉蝶ちゃんの気を動かすね」
そして、札を握った泉蝶の手に宝玉を持っていない方の手をのせた。そのまま気を込めて、泉蝶の気を彼女の握る札に集中させる。
「なんだか、背中がぞわぞわするわ」
「これも感じるわけね。いいこといいこと。もし、こんなぞわぞわ感があったら、誰かに気を操られてるから気を付けてね」
「……わかったわ」
泉蝶は素直にうなずいている。それに志閃もうなずいて、彼女に触れていた手を放した。




