五章 [9]
* * *
「姫将軍聞いてくださいよ~。うちの上司が変なこと言ってくるんですよ」
後宮警護の休憩中、泉蝶にそう愚痴を漏らしてきたのは、禁軍の仙術部隊に属する女性兵士だった。女性ながら禁軍将軍を務める泉蝶は、ほかの女性軍人から良く慕われており、隊や軍の枠を超えて多くの相談を受ける。
「上司? 志閃のこと?」
泉蝶は休憩するならと第八皇子の指図で用意された茶器を卓に置きながら尋ねた。
「そうですぅ~」
哀れっぽく言う彼女。
「私の彼氏――禁軍所属ではないんですが、軍人なんです。その彼がいま前線部隊にいるんですけど、彼とのやり取りの手紙を全部志閃将軍が確認しようとするんです。理由を聞いても、『上司にはすべてを知る義務があるから』って言うだけで……。
私が送る手紙は全部確認されちゃうから、あんまり恥ずかしい言葉書けないし、おかげで彼とのやり取りも減っちゃったんです。無事だけは頻繁に伝えてくれるんですけど、そっけない内容になっちゃって。前は、もっと『休戦中の夜に見上げた星がきれいで、君と一緒に見たいと思った』とか、本当はもう少し詩的な書き方ですけど、そんな感じの素敵な言葉を一緒に送ってくれてたのに、それもなくなっちゃって……」
「それは……、心中お察しするわ」
「仕事中にやり取りしてるんなら、私も問題だと思うんです。でも、志閃将軍は仕事後や休日のやり取りまで監視しようとするんです」
彼女はさらに語気を強めながら言う。
「それは、大変ね。敵へ情報が漏れることを危惧しているのかしら……」
「私が敵へ情報を漏らしているとでも――!?」
「いいえ。でも、途中で敵に奪われる可能性はあるでしょう?」
「個人的なやり取りで、奪われても問題ない内容ですよ!?」
さらに彼女は声の調子を上げていく。戦中で気が立っているのかもしれない。
「私以外にも、同僚の子たちも同じようなことを言ってたし、角端の子も――」
「みんなそんなにいろいろやり取りしてるの?」
「もちろんですよ! 姫将軍だって、彼氏や友達が前線にいたら心配して手紙を送ったりするでしょ?」
「……そう、……なのかし――。いや、そうよね」
怖い顔でにらまれて、慌てて頷く泉蝶。手紙は送らないものの、前線に思いをはせて、知人や部下の無事を祈ることは確かによくある。
「彼のことが心配で、仕事も手につかなくなってしまいそうなんです」
それは軍人としてどうなのかと思ったものの、今の彼女は刺激しない方が賢明だ。泉蝶は、難しい顔で浅くうなずいた。
「志閃将軍は私が言っても、『国のために必要なことだから』って言って聞いてくださいませんし!」
そして、彼女は泉蝶に向かって身を乗り出してきた。
「だから、姫将軍! 姫将軍から志閃将軍に言ってくださいよ! 姫将軍の話なら志閃将軍も聞いてくださるでしょうし、私、もう耐えきれないんですっ!」
「でも、ほかの部隊のやり方に指図は――」
「そこを何とか!」
彼女は先ほどまでの勢いそのままに泉蝶を拝み倒しはじめる。
「理由を――、私が納得できる理由だけでも聞いてください! 泉蝶姫将軍が先ほど言われたように、やっぱり私たちが敵に情報を流しているかもって思われてるんですかね? そりゃあ、私は研究機関出身で戦闘力は低いですし、禁軍に入ってまだ四年の若手ですから、信頼されてないのかもしれませんけど……」
「そ、そんなことないわ!」
急に弱気になる彼女に、泉蝶は語気を強めて言った。
「そうでしょうか……?」
「そうよ! 当たり前じゃない!」
「それなら姫将軍、お願いですから、志閃将軍に聞いて、あわよくば説得してくださいよぉ」
哀れっぽい言葉とともに、泉蝶は両手をとられた。このままでは彼女のなすがままだ。しかし、禁軍兵士間の問題は放っておけない。
「……仕方ないわね……」
結局はそううなずいた泉蝶だった。




