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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
五章 闇夜の蓮と弓使い
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五章 [8]

 水蓮(すいれん)は門の上――城壁から、はるかかなたまで連なる急峻な山々を眺めている。

 その頭にはいつもの小鳥。志閃(しせん)がかつて「人が鳥になっている」と例えた小鳥だ。見た目も鳴き声も仕草もすべてがごく普通で、そのあたりで土を掘り返して虫を探す鳥たちと変らなく見える。纏う気は鳥のものではないが、志閃が言うような人が鳥になっているという感覚はわからない。ふつうの鳥よりも気の流れが複雑で、気の制御ができているように感じる程度だ。


 動植物と相性の良い仙術使いと言うのは珍しくない。志閃は植物全般と相性がいいし、騎馬部隊には熊を手なずけて騎獣にしている者もいる。

 動物に好かれやすいのは仙術使いの特徴で、頭に小鳥を載せた水蓮を奇異の目で見る者はいなかった。逆に、「今日も小鳥ちゃんといっしょか?」と小鳥もろともかわいがられているようだ。

 小鳥の気の乱れを指摘する者もいたが、「一緒にいることが多かったから、私の気の流れが影響しちゃったのかも」と答えている。使役された動物は、術師の影響なのか他の動物よりも高度な知性を持つことが多い。それに伴って、気の流れも他の獣より複雑になる。このことは一般常識なので、彼らはそれで納得するようだったが、小鳥の気の乱れは水蓮が桃源に来たばかりのころからだったことを飛露(とびつゆ)は知っていた。


 怪しいから敵国の刺客だと決めつけるのは根拠が足りない、という志閃の指摘も理解できる。しかし、疑わしいものは疑っておくべきで、それが帝の安全にもつながるはずだ。


 ただし、視野は広く持たなくてはならない。飛露は宮殿中から飛び出す騎馬や、仙術、術で使役した動物などの出入りにも気を配った。

 今城門を入り禁軍拠点の門をくぐった騎馬は、飛露の指示で編成した角端(かくたん)軍の伝達部隊。毎日朝と夕に前線からの情報を持ち帰る。

 次に朝廷から飛び出していったのは、文官か誰かが放った仙術による伝令だろうか。あれは無視だ。騎馬部隊の伝令も無視。

 今王宮を出た男は、飛露の部下だが、彼の勤務時間は終わっている。源京に住む家族のもとへ帰るのだろう。部下が仙術で何かを飛ばした。方向は前線とは反対だが、あれはあとで確認しておこうと術を使った部下を覚えておく。


 宮殿を含む源京内のみでのやり取りは自軍でも無視だ。家族や友人、恋人などとの個人的なやり取りもあるだろうし、そこまで詮索していたらきりがない。

 前線方向からの鷹。あれは飛露が指示して猛禽使いの部下に書類のやり取りをやらせているものだ。これは自分が命じたことなので、あえて確認する必要もない。


 水蓮の鳥が動いた。何度か宮殿上を旋回して仲間を集め、集団で宮殿内の庭に降り立ち土をつつきはじめる。帝のいるであろう執務室の近くなのが気になるが、帝の近くをじろじろ監視するのははばかられる。

 しかし、飛露がこのまま監視を続けるか悩むのは短時間で済んだ。

 執務室の窓から涼しげな顔をした帝直属の占い師――白伝(はくでん)の顔がのぞく。その瞬間彼が放った札は、鳥の近くに落ちるや否や爆竹のような破裂音を響かせた。

 次の瞬間、音に驚いた鳥たちが集団で空へ舞い上がる。彼も、水蓮の存在には警戒していた。彼女のそばにいる小鳥やその気の不自然さにも気付いているのだろう。彼は志閃に並ぶ仙術の使い手なのだから。


 小鳥の群れが帝から遠い庭園の一角に降り立ったことを確認して、飛露は再び意識を拡散させた。

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