五章[5]
* * *
「ど? 飛露」
「思った以上に気の流出が多いな」
宮殿の広い庭園を並んで歩く志閃と飛露。
あまり見ない組み合わせだが、彼らを見とがめるものはいない。平時ならば、雅に石木水で整えられた庭園をめでる上流貴族や詩人がいるが、今は戦中。のんびり風景を楽しむ余裕のある者はいない。
せいぜい庭の隅や物陰から静かにあたりを警護する武官や近道として庭を横断する使用人と官吏がいるくらいだ。
「まぁ、いろんな人がいろんなところにいろんな情報を回してるだろうからねぇ」
そううなずく志閃の手には、翡翠色の宝玉がある。彼が宮殿内に仕掛けた気の流出を探知する術の受信を行う術具だ。飛露の手にも似たような石が握られていた。
「公式な伝達記録はとっているのだろうな?」
「もちろん。公式記録と実際に行われてる仙術による伝達に違いがないか見たいんっしょ?」
志閃が懐から紙の束を出す。公的な情報伝達はすべていつ誰からどこへ情報が送られたか記録されている。志閃の体温が移って生ぬるくなった紙を飛露は汚物を触るような手つきで受け取った。
「俺も確認したけど、これは無駄かもね。公式記録に載らない、内密に行われるやり取りもあるわけじゃん。私的なやりとりは全然記録されてないし」
「……確かにな」
そう言いつつも飛露は書類の縁を指先でつまみながら、すべての内容に目を通している。
「大して役に立たぬ」
しかし、書類はその後志閃に突き返された。
「だから言ったじゃん」
志閃はそう言って、受け取った書類を丁寧にしまいなおした。
「こうなったら、異常にやり取りが多い者、戦がはじまって急に情報のやり取りが多くなった者、一方的に情報を送るだけで受け取りが少ない者、怪しい行動をする者――。そのあたりをしらみつぶしに確認していくほかあるまい」
「いや、それきついっしょ。誰が何通送って、何通受け取ったかとか覚えきれないって」
「王宮中を見るのなら難しいが、禁軍ならばいけるのではないか?」
飛露はそう言って灰色の鋭い瞳で視線を見た。
「ん~。まぁ、禁軍の人間なら顔や名前や性格のわかる人も多いかな……。索冥軍と女の子なら覚えてる自信ある」
「それでよい。わたしも角端軍ならばすべて把握している」
お互い禁軍の大部隊を率いる将軍だ。自部隊のことはすべてわかっている。
「とりあえずはそれに絞って、その分今までより詳しく確認していくってことだね」
「範囲は狭まるが、それが確実であろう」
「でも、自軍に敵の内通者がいるってこと、ありえる?」
禁軍の兵士は、帝に仕えるという性質上、出自が明らかなものしかいない。敵国の間者が入り込むすきなどないはずだ。
「身近なところからつぶしていくのが安心であろう」
飛露はつんと顎を上げた。
「禁軍に間者がいないとわかれば、次はまた違う軍なり、官庁なりを監視すれば良い」
「なるほどね。りょーかい」
志閃はうなずいた。
「じゃあ俺は索冥中心に見るわ。飛露は自軍よろしく」
「任せておくがよい」
あいかわらずの高圧的な言い方は、彼の自信の表れらしい。
「くれぐれも無理しないようにね」
「余計な世話だ」
志閃は親切心で言ったつもりだったが、飛露は眉間に深いしわを寄せた。そのまま必要な情報交換はしたと言わんばかりに、その場を去りはじめてしまう。
しかし、志閃はそれを追わない。あとは彼のやりやすいようにやっていくだろう。




