五章[4]
「志閃はよく後宮に出入りするのですか?」
「うん。最近は結構頻繁にいるかも。でも、キングン将軍なんだからふつうだよね?」
後宮に出入りできるのは一般的に女性か、成人前の幼い男子、去勢された宦官のみだ。ただし、帝周辺を守る禁軍の中でも位の高いものや帝の許可を得られたものならば、男性でも入ることができる。
それでも、飛露や王紀は極力後宮へ立ち入るのは避けているし、女好きの志閃でさえ、必要に迫られた時以外は軽く覗く程度にとどめていたはずだ。
気にならないと言えば嘘になる。なるが――。
「それでも、志閃がちゃんと必要な仕事をしてくれているのなら、あたしには関係のないことだわ」
泉蝶は小さく自分にそう言い聞かせた。
「……泉蝶?」
「あ、いえ。なんでもありません。こちらの話で――」
小首を傾げる翔に、泉蝶は慌てて取り繕った。
「泉蝶も志閃が心配?」
「それは、同僚ですから滞りなく仕事ができる状態かどうか不安にもなりますが……」
「そういう話じゃないけど、……まぁいいや」
翔は少し拗ねているようだったが、泉蝶にはその理由がわからない。
何かまずいことを言ってしまっただろうかと、先ほどの自分の言葉を反芻したが、言葉遣いも内容も変なところはなかったはずだ。
「志閃はのんびりしてるようでとってもがんばり屋さんだから、泉蝶も気を使ってあげてね。大事なドーリョーなんでしょ?」
「……承知いたしました」
志閃はいつも遊んでいるように見えて、与えられた仕事はいつの間にか終わらせているし、実力もある。……らしい。日ごろ、ダメな面しか見せないので、信じがたいが……。
それでも、にっこり笑う皇子からの命令だ。泉蝶は神妙な顔でうなずいた。
「お願いだよ?」
小首を傾げてそう釘をさす第八皇子に、泉蝶は「はい」と再度深くうなずく。
「ありがとう。それじゃあ、おしゃべりは終わりだよ。泉蝶はもうちょっとここで休んでね」
「しかし――」
「命令だよ。いいね?」
そう言って眉根にしわを寄せ、厳しい顔をする翔には、人に命じ慣れた皇族らしさが垣間見えた。
「はい」
泉蝶はそう答えるしかない。
「ほら、良く休めるように術をかけてあげるから、目を閉じて」
それにも素直に従う。今も徐々にこちらへ動きつつあるであろう前線に思いをはせながら――。




