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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
四章 探す蓮と大剣士
76/143

四章 [21]

 

  * * *


「すごくいい眺め!」


 午後の山登りは、予想したほど難しくなかった。帝都「源京(げんきょう)」を見下ろすのならば、高い山にと思い源京西部の山に登ることを決めたが、赤覇(せきは)は小柄で筋力もあまりない水蓮(すいれん)は苦戦すると思っていたのだ。


 しかし水蓮は予想以上の身軽さで、大きな岩が取り除かれただけの急な道を登っていく。


「お前、どこにそんな体力があるんだ?」


 不思議になって赤覇は尋ねた。


「気で強化してるんですよ」


 水蓮は得意げに笑んで、いつか王紀(おうき)がしたのと同じ答えをした。額ににじんだ汗を元気に拭っている。


「仙術ってすげぇんだな……」


「使い方を間違うと、国一つ消えかねませんけどね」


「『国』?」


 規模の大きな話に、赤覇は問い返した。


「そういう悪い仙術使いもたまにいるかも、って話です」


 ――それはお前のことか?


 さすがにそんなことは聞けなかった。


「…………」


 水蓮のあまりの無邪気さに消えかかっていた警戒心が、少しだけよみがえった。

 そんなことには気づかず、水蓮はどんどん登っていく。そして――。


「あれ? 飛露(とびつゆ)将軍?」


「は?」


 赤覇はすっとんきょうな声を上げながら、水蓮の指差す先を見た。

 背の低い木の茂みの先、野花が生い茂る急な斜面に座り瞑想している人影。確かに飛露だ。


「あいつ今日休みだろ? 何やってんだ?」


 赤覇は同僚の意外な休日の過ごし方に足を速めた。


「あ、ちょ、待ってください!」


 それを水蓮が慌てて追いかける。


 飛露もこちらに近づいてくる何者かの気配を感じたのだろう。瞑想の集中力を維持したまま、顔を上げた。


「なぜ貴様らがここにいる?」


 飛露は不快そうに顔をしかめている。


「水蓮が源京を見下ろせる場所に行きたいって言ったんでな」


 赤覇は追いついてきた水蓮の頭を軽くたたきながら答えた。


「お前こそ何してんだ? まさか休日のたびにこんな辺境で瞑想してるんじゃねぇだろうな?」


「馬鹿を言うな。前線に行ったり、源京周辺に危険なものがないか確認したりしておるわ」


 どちらにしても、休日らしい過ごし方はしていないようだ。


「あ、もしかしてここ、将軍の憩いの場ですか?」


「憩いの場というほどではない。が、確かによく来る」


「とってもいい眺めです」


 水蓮はそこから源京を見下ろして、ため息交じりに言った。


「あの辺――宮殿の奥にある黄色い屋根の建物が帝の住まれているところですか?」


 王宮を指して尋ねる。


「それを聞いてどうする?」


「ただの興味本位です」


 飛露の低い声にひるみつつも、水蓮はできるだけ明るく答えた。


「あそこを中心に気が緩やかに渦をつくりながら、湧き出しているので。とてもきれいな淡い虹色の光……。ずっと禁軍の拠点で、この気の流れはどこから来てるんだろうって思ってたんです。それを知りたくて、源京が見下ろせる場所へ行きたかったんですけど……」


「ふん」


 飛露は鼻であしらった。くだらんとでも言いたげだ。


「湧き出した気が、源京中を覆って――。守られているって感じます」


 気を見ることができない赤覇は、何と答えれば良いのかわからない。


 ――つーか、このかしこまり具合からして飛露に話しかけてんだろ?


 そう思って飛露を見たが、彼は仏頂面で座っているだけで何か応える気はないようだ。

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