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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
四章 探す蓮と大剣士
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四章 [18]

「いや~、いろいろ準備をしててね。飛露(とびつゆ)にも手伝ってもらいたいなー、なんて思ったりして」


 飛露に胸ぐらをつかまれた志閃(しせん)は、抵抗することなく疲れた声で言う。


「飛露ってうまく隠してるけど、かーなーり、仙術得意よね。索冥(さくめい)軍に来てくれたら、真っ先に俺の副官にしてあげたいくらいだわ」


 ただ、軽口を言う余裕くらいはあるようだ。


「貴様の副官になるなどまっぴらごめんだ」


「うん、俺もあんたみたいな堅物、能力が高くても副官に欲しくない。まーさ、これからもあんたが隠したがってる能力を黙っておいてあげる代わりに、ちょっと協力して欲しいなと思うわけ」


「貴様、わたしを脅すのか?」


 胸ぐらをつかむ飛露の力が強くなる。


「ん~? いや、飛露にも全然悪い話じゃないと思うけど? ……廣国の内通者を捕まえようって話」


 志閃は最後にごくごく小さな声でそう付け足した。もともと鋭い飛露の目がさらに細くなる。


「食いついたね。じゃあ、今夜、仕事が終わったら俺の部屋に来てくれる?」


「なぜ貴様の部屋などに――」


「そこが一番守りが固くて、盗み聞ぎされないからね」


 志閃は疲れの見える顔を明るくして、得意げに片目を閉じてみせた。


「あ、あと、一つ約束してね。水蓮(すいれん)ちゃんには手を出さないこと」


「保証できぬ。奴は怪しい」


「それでも、完全にクロってわかるまではだーめ! そこは絶対に約束。俺の情報、欲しいっしょ? その条件」


 飛露は殺気さえこもったような目で志閃をにらんだが、最後には浅くうなずいて彼の胸ぐらをつかむ手も放した。


「おー、飛露意外とやさしー」


「このままだと貴様が死にそうだったのでな」


「……俺、そんなに疲れて見える?」


「隠しているつもりだろうが、気の乱れがひどい。おとといから休んでないのか? 術も小さくないものをいくつも使っただろう?」


「ん~、飛露って俺が思ってる以上にできるやつなのかも……」


 否定しないのは志閃なりの肯定だ。飛露は鋭いものの、敵意のない灰色の目で同僚を見やった。


「でさー、意外とやさしい飛露にもう一つ。もう少し水蓮ちゃんにやさしくしてあげてくれね~? あの弓、水蓮ちゃんにはデカすぎるっしょ? 水蓮ちゃんが帝に危害を加える可能性がある、って考えてるのを悪いとは言わないよ? でもさー、あれじゃただの嫌がらせじゃね?」


 自由を取り戻した志閃は飛露の肩に両肘をついて、飛露の頭越しに少し離れたところで弓を引く水蓮を見た。


「わたしの部下だ。わたしのやり方に従ってもらうまで」


 志閃の疲労に気付いてしまった飛露は、彼を払いのけるのを我慢する代わりに冷たい声で答えた。


「いや、でも弦十分に引けてないし。ってかあれ弦の張り方きつくね?」


 水蓮が今使っている弓は、大人の男が標準的に使っているものだ。小柄な水蓮には大きすぎる。しかも、弦がきつく張ってあるために、彼女の細腕で弦を十分に引くのは辛そうだ。


「良いのだ。力不足を理由に帝のそばには近づけさせぬ」


「でも、水蓮ちゃんのひじ、結構やばくね?」


「…………」


「ほら、飛露も気づいてるんっしょ? 水蓮ちゃん自身も治療してるけど、飛露ならもっといい治療法とか手当てとか知ってんじゃね?」


「……敵のくせして世話かけさせる」


 飛露はいらだったように言って、肩に肘をつく志閃を跳ねのけると、一回一回気を集中して弓を引く水蓮に大股で歩み寄った。


「水蓮、ひじを見せろ」


 そう言って、相手の反応を待つ前に右腕をつかんだ。


「飛露将軍!?」


 水蓮が驚いたような声を上げる。

 その間にも、飛露は水蓮のひじに触れて様子を確かめている。ほのかに熱を持っているようだ。何も言わずに少し力を入れると、水蓮が痛みに声を上げた。


「ふん。世話をかけさせる」


 飛露はもう一度そうつぶやいた。

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