四章 [17]
「……だから、王紀さんとかも冷たいんですか?」
右手の槍と左手の剣。一見ちぐはぐな二刀流を見事に使いこなす王紀を見ながら水蓮が尋ねる。王紀は遠距離を気塊、中距離を槍、近距離に入り込まれたら、槍の柄を盾にしつつ剣で応戦する器用な戦法をとっていた。
「まぁ、王紀は慎重な子だから」
「泉蝶さんは――?」
「泉蝶ちゃんは情が深い子だよ」
志閃はそれだけ答えた。
「俺は水蓮ちゃんの気が大好き。全然嫌な感じしないし、とっても純粋でそばにいるだけで癒される」
「ありがとう、……ございます」
「ん~?」
志閃は水蓮の表情をうかがった。
「もしかして照れてる? あ、俺にも泉蝶ちゃんにするみたいにため口でもいいよ? というかむしろため口にして。その方がかわいい」
「あ、……」
「水蓮」
志閃に返事をしようとしたところに、飛露の不機嫌そうな声が割り込んだ。
「休憩は終わりだ。稽古を再開しろ」
「はい、飛露将軍」
水蓮は慌てて答えて、弓を持って駆けていった。
「邪魔するなよ~、飛露」
水蓮を名残惜しそうに見送った志閃は、なれなれしく飛露の肩に腕を乗せた。
「邪魔は貴様だろう」
飛露はあっという間に志閃の腕を払いのける。
「貴様、自分の部下の半分以上が前線に送られているのに、なぜそんなにのんびりしていられる?」
飛露の声にははっきりといらだちが感じられた。
戦況はここ一ヶ月、徐々に悪化している。
帝に最も近い位置を守る泉蝶の護衛部隊聳孤軍には変化がないが、それ以外の隊は人数の差こそあれ隊員を前線に送るよう命じられている。その中でも、赤覇の炎狗軍に次いで多くの兵士を前線に派遣しているのが、仙術部隊だ。
もともと多くない術師は、稀有な力を使い、場合によっては一人で戦況を大きく変えうる貴重な存在だが、帝はそれを惜しまず戦場へ投入している。
それだけ、廣に押されているらしい。飛露も何度か前線まで足を運んだが、数の差が大きく、戦況は芳しくないというのが正直な感想だ。
「のんびりしてるつもりはないんだけどね~」
志閃はそう言ってあくびをかみ殺しながら伸びをした。
「……寝てないのか?」
飛露はここでやっと志閃がうまく隠していた気の乱れに気付いた。
「ちょっとおとといの午後、前線に行っててねー。第一報は俺が伝えるからいらないって言ったけど、そろそろ第二報が来るころかな。いやー、なかなかまずかったわ。砦の結界が破られてね――」
「なんだと!?」
志閃の軽い口調から発された重い内容に、飛露は思わず志閃の胸ぐらをつかんだ。
「貴様、それほど重要なことをなぜ真っ先に言わない!? おとといのことなのだろう!? 言う時間はあったはずっ!!」




