四章 [16]
「水蓮ちゃん、飛露の生い立ち聞いたことある?」
「……ありません」
そんな話をするほど、彼と親しいわけがない。
「まー、本人に内緒であんま詳しく話すつもりはないけど、飛露って名前的にも、この辺の人じゃないじゃん?」
「それは何となく――」
確かに「トビツユ」と言う響きは耳慣れない。
「あいつ、桃源の出身じゃないんだよね。廣のさらに先、海を越えた先の国から来たんだってさ。国の名前は知らね。聞けば教えてくれるのかもしれないけど、俺、男のことは興味ないし。
ここまで来た理由は、水蓮ちゃんと一緒。気を扱えることで周りの人に奇異の目で見られたり、疎まれたりして、自分を受け入れてくれる場所を探してさまよってたらここまでたどり着いた。なんか、術師って自然と桃源に魅かれてくるみたいね。そういう大きな気の流れがあるんだと思う」
水蓮はこくりとうなずいて志閃の話を聞いた。
「あいつがここにたどり着いたときは、七歳とか八歳とかそれっくらいって聞いたなぁ。俺はそのころの飛露は知らないから人から聞いた話になるけどさ。あいつが桃源に来た時は、両親も一緒だったけど、三人ともかなり傷ついて疲労していて、両親は亡くなっちゃったらしい。一人になった飛露に読み書きから政治、法律、仙術――いろいろなことを教えてくれたのが先代の帝。まぁ、直接教えてくれたわけじゃないけどね。ちゃんと飛露が学べるように環境を整えてくれたんだって。そして、今の帝が、飛露を自分を守る禁軍の一将軍として重用してくれた。
他国出身の自分にそこまでしてくれた。飛露はそれをすごく感謝してるんだって。国も両親も何もかも失った自分に、色々なものを与えて、自分を必要としてくれる帝を何を犠牲にしても守りたいんじゃないかな。
だから、飛露は水蓮ちゃんみたいに少しでも疑わしい人にかなり冷たい。水蓮ちゃんが悪いとは言わないよ? 言わないけど、やましいことがないなら、もっと堂々とやればいいし、誤解されそうなときは俺や泉蝶ちゃんに言ってくれたら何とかするから」
「……志閃さんも私のこと怪しいって思ってるんですか?」
水蓮は身を小さくしながらも、上目づかいに志閃の様子を盗み見ている。
「いんや。全然」
しかし、志閃は水蓮の問いをあっさり否定した。
「でも、ほかの人は――?」
「まぁ、そうかもね」
水蓮は途中で言葉を切ったが、志閃は彼女の言いたいことを察してうなずいた。ほかの人は彼女を敵国の刺客と疑っているかもしれないと。




