四章 [12]
「俺、結構本気で術式組んだのよ? しょっちゅう手入れにも来たし、前来た時も全然ほころびなんてなかった。そもそも、この砦で桃源軍全体の仙術師を指揮してる人――鴎老師っていう爺さんだけど、あの人もかなりすごい使い手よ? あの人の目の前でこの守護結界を壊せるとは正直思ってなかったわ」
口調は相変わらず軽いが、次第に掻き乱されていく頭に志閃もいらだっているのだろうと赤覇は察した。
「この砦にも内通者がいるのか?」
「そりゃ、まだわかんね。ただ、可能性はあるんじゃね? この砦ん中は、みんなピリピリしてて気の流れが変則的。一人一人の緊張で気が乱れてて、全然読めない。敵や内通者が身をひそめられる余裕は十分あるね。まぁ、赤覇も気を付けたらいいんじゃないの?」
何とも投げやりな言い方だ。
しかも、志閃は話すことはすべて言ったと言わんばかりに、部屋を出ようと扉の取っ手に手をかけている。
「気が読めねぇのに、どうやって気を付けろってんだ?」
赤覇はそれをそう呼び止めた。
「それを気が読める人間に聞いてもねぇ……」
再度赤覇の方へ向き直って、志閃はそう首を傾げた。
「まぁ、おかしな動きをしてないか監視するしかないんじゃね? けど、あれだけ強い結界を破れるのは、強い術師か強力な術の込められた武器を扱える人だけ。どんな結界か見分けられるのも、気を感じられる才能のある人だけ。術師を中心に監視を頼むよ。結界のほころびから侵入しようとしてきた廣の兵士は八人。全員が仙術の心得と高度な体術を持っていた。少数精鋭で忍び込んで、悪さをするつもりだったみたいね。けど、そいつらがどうやって結界を解いたのか、俺がさっきちらっと見ただけじゃ全然わかんなかった。もしかしたら、桃源軍の誰かが結界を壊して招き入れようとしたのかも」
志閃の言い方は先ほどより若干の誠意が感じられた。
「……いろいろとまずいな」
「俺もそう思うよ」
志閃は困ったよな弱々しい笑みを浮かべている。
「このあとはどうするつもりだ?」
そして、そうしつつも戸に手をかけ、部屋を出ていこうとしている志閃の意図を問う。
「もう一回破られた結界を見に行くよ。すぐに原因や内通者の有無はわからないと思うけど、もしかしたら手がかりがあるかもしれない。そしたら、結界の術式を組みなおして、鴎老師と剛にーさんに詳しい結界が破られた原因の究明を依頼して、源京に帰るかな。源京には確実に内通者がいるからね。それを調べる。まぁ、そっちの内通者のことは俺に任せていいよ」
「本当に大丈夫なのか?」
志閃はいつも女ばかり追いかけて、仕事をしている想像ができないのだが……。
「だいじょぶ、だいじょぶ。ちゃんと結界に細工したり、仕事してたの見たっしょ?」
そこは確かに――。
赤覇はうなずきかけたが、志閃の次の言葉で動きを止めた。
「それに、どーせ気を感じられない赤覇じゃほとんど役に立たないし」
こんな状況でも志閃は一言多い。
「……そうだな」
額に青筋を浮かべながらも、赤覇は大人な対応をした。




