四章 [11]
先に赤覇を入れた志閃は、閉めた扉に札を貼って小さく何かを唱えた後、赤覇に向き直った。
「何をした?」
「盗み聞ぎされたくないからねー。ちょっと仙術で細工してみた」
不機嫌な問いに、志閃はいつもの軽い調子で答えてみせる。
「盗み聞ぎって、ここは桃源の拠点だろ」
「『障子に耳あり壁に目あり』って言うじゃん?」
「逆だろ」
赤覇はため息をついたが、「仙術を使えばそういうことも可能ってこと」と志閃はよくわからないことを言っている。
「まっ、ぶっちゃけ、本気で内通者がいるんじゃね? って思いはじめたんだよねー」
志閃は先ほどまでと変わらない軽い口調で重大なことを言ってのけた。
「は?」
「俺がここまで来たのも、帝都からそういう気の流出を見つけたからだし。小さい紙切れだけどね。それを気の力であっちの廣国軍の拠点まで飛ばしたみたいよ。急なことだったから、止められずにみすみす向こうに情報をくれてやるハメになっちゃったけど」
「内通者は捕まえたのか?」
軽い調子の志閃に反して、赤覇は真面目な口調になった。
「んや。まだ」
志閃は首を横に振る。
「俺が見つけられたのは術式だけだったからねぇ……。まずいと思って、すぐに追いかけてきちゃったし。馬より術の方が何倍も速いから、正直意味はないかもって思ったけど、まぁ、来てよかったかなぁー」
彼が来てよかったと言ったのは、先ほど砦で起こった騒ぎが関係しているのだろう。
「あれは何だったんだ?」
赤覇は騒ぎの真相を尋ねた。
「砦の結界が破られたみたいね」
志閃は何ともないことのように答えた。
「は!?」
しかし、どう考えても大問題だ。
この砦は、仙術で厳重に守られている。
仙術に疎い赤覇でも、守護結界の強度には信頼を置いていた。何度模擬戦をやっても、志閃の扱う結界は破れなかったし、何十人もの術師が協力して作り上げているこの砦の結界はそれ以上に頑丈だ。
「最初、でかい音がしたじゃん? あれ、俺が仕込んだ警報なんだよね。万一、砦の結界が破られたとき砦中の人がみんな気付くようにって。けど、そう簡単に破れるようなやわな結界じゃないはずなんだけどなぁ……」
志閃は困ったように鳥の巣頭を掻いて、髪の毛を一層ぼさぼさにした。




