四章 [10]
上は満天の星空。月は細いが、十分明るい。
眼下の狭い窪地は昼間に廣国軍と戦っていた場所だ。起伏があり、さほど広さもなく、騎馬戦には向かない。
この桃源国で騎馬隊の役割は伝令係がほとんどだ。だから、禁軍の中でも赤覇の歩兵部隊と特殊な戦闘形態をとれる仙術部隊が真っ先に派遣された。
「だが、さすがに疲れるな」
肉体的にも精神的にも。
疲れているのに全く眠気を感じないのが問題だ。
横になれば体は休まるかもしれないとも考えたが、余計な思考がよぎりそうで気が引ける。こうやって明日も戦うことになるかもしれない場所を見ながら、次回の戦術を考えた方が、まだましに感じた。
手すりにもたれかかっていれば、肉体疲労も抑えられるはずだ。そうやって本当に眠くなったところで、横になればいい。
しばらくの間、赤覇は淡い星明りに照らされた窪地を見ながら、物思いにふけっていた。
その物思いを破ったのは、大きな破壊音だった。そして爆発音。爆発音は仙術によるものだろう。
はっとして顔を上げた赤覇の視線の端に白い光が明滅した。それに合わせて、連続した爆発音が響き渡る。
光と音の方向は左下。帝都への道は右側を通っているので、それとは反対側。砦の背後の一階だ。
「敵襲か!?」
この騒ぎで思い浮かんだ可能性は一つだけだった。赤覇は隣に立てかけていた大剣を手に取り、いまだに戦闘音の響く方向へと全力で駆けだした。
仙術によるらしき爆発音に剣劇が混ざり、しかしそれは赤覇が音源へたどり着く前に消えた。
「なんでお前がここにいる?」
駆け付けた赤覇は、傷を負った兵士の応急手当てを行っている見慣れた癖毛に問うた。
「おー、赤覇。かーなーり、気が立ってるね」
黒髪のところどころを金に染め分けた仙術部隊の癖毛将軍はそう口の端を釣り上げた。
「質問に答えろ、志閃」
「じゃ、こっちおいで」
志閃は「あとよろしく」と近くにいた自分の部下――宗剛に言って、赤覇に手招きした。
彼が案内したのは、砦内の武器庫の一つ。敵兵に悪用されないよう、中身はほとんど帝都に運ばれ、空の棚と札や矢、槍などの消耗品があるだけだ。




