四章 [6]
扉から近い水蓮の寝台に腰かけて、泉蝶は水蓮の帰りを待った。手持ちぶさたに、腰まで届く長い髪を手ですいている。
「ただいまぁ……」
空の紫が消えたころ、水蓮の顔が細く開けた戸から覗いた。帰りが遅くなったのを怒られるのではないかと、びくびくしながら家の敷居をまたぐ子どものような慎重さだ。
「おかえりなさい」
泉蝶は淡くほほえんでそれを迎えた。
「警護から帰る途中、見たわよ」
「あっ、もしかして私のへたくそな弓、見られちゃった?」
水蓮は、照れたような笑みを浮かべた。帰りが遅かったことには、何も言及されず安心したようだ。
「私、筋力があまりないみたいだし、ほとんど弓を扱ったことなかったから早く上達したくて練習してたんだけど……」
水蓮は手に持った弓を見た。彼女の身の丈以上もある長弓だ。
「そんなに下手そうには見えなかったわよ。それを言ったら、あたしなんて弓を引いたことすらないんだし」
「そうなの!?」
驚いたように身を乗り出して尋ねてくる水蓮。
「そうよ。あたしは剣一筋だったから」
話が脱線していると思いつつも、泉蝶は話を戻すことができなかった。予想以上に水蓮を疑いたくないという気持ちが強いようだ。
「私も札代わりに術式を書き込んだ剣なら使ったことあるけど、結構重くて大変だったなぁ」
仕事以外の時は敬語を使わなくてもいい、と言った泉蝶の言葉もちゃんと守っている。本当に素直でいい子なのだ。
「あたしも最初は大変だったわ。今は何とか自分に合った重さと大きさの剣を見つけられたけど……」
そう言って泉蝶は腰に佩いた剣の柄を軽く叩く。そしてまた、夕方のことを聞くべきかためらった。
水蓮が話していた時、周りには誰もいなかった。ただの独り言だったのかもしれない。
――もしかしたら、愚痴かも……。
飛露のような口調も頭も硬い上司のそばにいれば、文句もたまるだろう。
「私の弓は少し大きい気もするんだけど、飛露将軍がこれを使えって――」
――ほら、飛露への文句を溜めてるみたいだわ。
泉蝶は勝手に自己納得した。




