四章 [5]
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今まで一人だった部屋に同居人がいるのは、不思議な気分だった。
人によっては、誰かと同じ部屋にいるのを嫌がり、部屋を変えてほしいと泉蝶に言ってくる者も少なからずいる。しかし、泉蝶は水蓮と部屋を分け合うようになっても、それほど嫌ではなかった。むしろ、話し相手ができて楽しい時も多い。
現在泉蝶の部屋は、中央を横切るように木製の衝立が置かれ、その左右にそれぞれ寝台や机などが配置されていた。
もともと広い部屋だったので、二つに区切ってもそれほど窮屈さは感じない。中央に置いた衝立のせいで、窓からの光が届きにくくなる時間帯もあったが、その程度なら我慢できる。
宮殿内の警護を行っていた泉蝶は、兵舎の最上階にある部屋へ戻るべく、足早に禁軍の拠点へと戻っていた。すでに日が沈み、空は濃紺から青紫に染め分けられている。
最近は仕事や稽古の後に水蓮と部屋で合流して、一緒に夕食を食べに行くのが習慣づいていた。今日の稽古を終えた水蓮がおなかをすかせて泉蝶を待っていることだろう。
そう思い、早足で歩く泉蝶がそれを見つけられたのは、偶然だった。
もう少しで禁軍の拠点に着こうかというところ。このあたりは、禁軍に用事があるものしか通らないため、閑散としている。
その木陰に隠れるように立っている影は、水蓮ではないだろうか。距離がだいぶ離れており、辺りも薄暗かったがなんとなくそんな気がした。
足を緩めて、さりげなくそちらをうかがう。
人影は一つだ。長いもの――おそらく弓を持っている。自主的に稽古をしているのだろうか。
しかし、切れ切れに流れてきた声で違うと思った。
「まだ、…………い」
その声で、泉蝶は人影が水蓮だと確信した。
視線を向けたり、足を止めたりすれば気づかれかねないので、ゆっくりと通り過ぎながら、耳を澄ませる。泉蝶は田舎育ちなので、五感の鋭さには自信があった。
「……っと、……くか、…かい…しょで――。……い。さがす……」
――探す? 何を?
泉蝶が聞けたのはそれだけだった。その声の後、すぐに弓の弦が鳴る音が響き渡った。話を終え、弓の稽古をはじめたらしい。
ただ、近くに水蓮以外の人影はない。独り言だろうか? そう言えば、水蓮は力むときに「ふぬぬ」と声を上げたり、考え事をしているとき思考が声に出ていたりしたような気がする。
帰ったら、それとなく聞いてみよう。
泉蝶はそう心に誓って、弦打ちの音を聞きながら、自室へ向かう足を少し早めた。




