三章 [17]
* * *
「泉蝶」
会議が終わり作戦本部を出た泉蝶に、声をかけたのは飛露だ。普段無口の彼が自ら声をかけてくるなど珍しい。
「これから、あの小娘の病室へ行くのだろう」
振り返った泉蝶に、飛露は確信的に聞いた。
「そうよ」
「わたしも行く」
飛露は大股に泉蝶に歩み寄り、彼女を抜かしてさらに歩いて行こうとする。
「……珍しいわね」
彼に合わせて再び歩き始める泉蝶。
「直属の上司としてあいさつをするだけだ」
飛露の声は硬く、彼が何を考えているか言葉以上の事は分からない。
「いいわ」
しかし、拒否する理由もなかったので、泉蝶はうなずいた。珍しい組み合わせだと思いながら、水蓮の病室まで足早に歩く。
「それでだ、少しだけあの小娘と二人きりで話しても良いか?」
「けがさせない?」
「馬鹿にしてくれるな。わたしだって、尻尾を出す前からひどいことはせぬ」
飛露の鋭い目を見ていると信じきれないのだが……。
泉蝶は彼の横顔を見てそう思ったが、「わかったわ」と頷いた。
「ありがたい」
その言葉には確かに感謝の気持ちがこもっているように思えた。
病室の前まで来た飛露は、ためらいなく扉をたたいた。すぐに「どうぞ」と水蓮の返事が聞こえてくる。
「泉蝶は外で待っておれ」
飛露は小声でそう命じて、扉を開けた。
「飛露さん……」
入ってきた飛露を見て、水蓮は少し小さくなった。
「『将軍』と呼べ。今朝の会議で、貴様は我が弓部隊角端軍の所属となった。以後よく励むよう」
飛露の声には感情がこもっていない。布団に上半身を起こしている水蓮の脇に立って、冷たい灰色の目で高圧的に見下ろしていた。




