三章 [14]
「会議をはじめてもよろしいですか?」
「えぇ。今日はまず水蓮をどの部隊に入れるか決めるのよね」
泉蝶は座っていたいすの向きを変え、作戦本部内の思い思いの場所にいる同僚たちと向き合えるようにした。
「はい、それからはじめましょう」
「仙術使えるんっしょ? じゃあ、俺の隊でいいじゃん。何が問題なわけ?」
さっそく仙術部隊を率いる志閃が声を上げる。
「お前は、水蓮を甘やかす」
赤覇が言った。しかしそれ以上は何も言わない。中立的な立場を維持するつもりだ。
「わたしも、あの小娘を志閃の部隊に入れるのには反対させていただく」
代わりに、飛露がしゃべりはじめた。普段無口な彼は、帝関係のことになると急に口数が多くなる。
「占い師が言うように、あの小娘は少し怪しい。確かに、桃源に仙人修行のためにやってくる者は多いが、彼らは必ずと言って良いほど、帝都よりも川下からやってくるではないか。
にもかかわらず、なぜあの小娘は、帝都の川上に倒れていたのだ? あの先には、小さな村以外何もない。川下から来て道に迷うこともないのではないか? 桃源に向かう道は全て帝都へつながっているのだぞ。
わたしは帝のために怪しきものはすべて罰したい。それができずとも、常に監視するべきだ。志閃のようなあの小娘を擁護する立場ではない者が」
「あれ? 飛露、帝の夢の話忘れてね? 逆に、水蓮ちゃんが崑崙から来たなら、山側から来たってことにつじつまあうんじゃね?」
「わたしは、水蓮が陛下のご覧になった夢に出てきた救世主だとは思っておらぬ」
「理由は?」
「仙術使いは嘘をつかぬからだ」
飛露はこれ以上説明することはないと言わんばかりに、きっぱりと主張した。
「志閃、貴様はどう思っているのだ? 貴様もあの小娘の言葉が嘘だらけなことに気づいておるのだろう?」
そして、尋問するような口調で視線を睨み据えた。
「ん~、確かに、そこだけは俺も気になるんだよね」
仙術使いである志閃はしぶしぶ賛同した。
「ちょっといいか?」と禁軍将軍の中でも仙術の扱いに長けた二人の会話に割って入ったのは、仙術に疎い赤覇だ。
「『仙術使いは嘘をつかない』って話はよく聞くが、なんでだ?」
赤覇の問いに、志閃、飛露、王紀の三人が顔を見合わせた。禁軍将軍で仙術の心得がある三人だ。そして、自然と仙術部隊の長である志閃が説明をはじめる。
「俺たち仙術使いは、『気』ってものを操っていろんなことをするんだけど、その『気』はかなり術師の精神に影響されるんだよね。だから、俺たちは極力、心が平穏な状態であり続けられるようにしないといけないわけ。瞑想で心を落ち着けたり、好きなことやったりね」
「志閃が女の子を追いかけてばっかりいるのもそう言うわけね」
泉蝶はため息をついた。
「否定はしないよ。くそむっつりな飛露みたいに、自分の欲を抑える努力を重ねて平穏を得る方法もあるけど、欲望に忠実に生きた方が楽じゃん?」
「美しさにかける生き方だ」
飛露が吐き捨てるように言う。
「俺は心を磨くよりも術を磨きたい派だからね。まぁ、その話はいいや。
心が強いと気も強い。心が揺らぐと気も揺らぐ。気が揺らぐと、気の揺らぎを抑えるのに余分な気を使うから、弱くなる。動揺したり、心配だったり、いらだったり――。気が揺らぐ原因はいっぱいあるけど、『嘘をつく』とか、何かやましいことをするって言うのは、結構長い間、心に罪悪感が残り続けるんだよね。もちろん、小さい嘘や悪意のない嘘、冗談とかは言うけどね。でも、長い間後悔したり、嘘がばれないか気になったりしちゃうような嘘はよっぽどじゃないとつかないよ」
「わかるような、わからないような……」
「気の揺らぎってのは、鎧に隙間があるのといっしょだよ。ここが弱点なんで突いてくださいって言ってるようなもん。わざわざ必要もないのに自分で鎧に穴をあけたり、剣を刃こぼれさせたりしないっしょ? それといっしょ」
「……おう」
志閃の説明に、赤覇はとりあえずうなずいた。
「では、話を戻しますね」
その瞬間、王紀がにこやかかに話の流れを持っていく。
「飛露は水蓮さんを志閃の仙術部隊に入れるのには反対、と言うことですが、私もそれに賛成です。志閃の軍に入れたら、志閃はたとえ相手が危険かもしれなくても、女性というだけで無条件に甘やかしそうですね。気づいたら彼女の言いなりになって帝を裏切っているかもしれません。そうならなくても、ぐさりとやられる可能性は皆無じゃありませんもんね」
「え~、王紀ひどい。俺そんなにバカじゃないって」
「信じられぬ。女のこととなると特に」
飛露がきっぱりと言ってのける。
「その通りです」




