三章 [12]
「しかもあいつ仙術からきしのくせに、強いし。二十二で禁軍将軍てナニサマ? ぴちぴちの泉蝶ちゃんより若いんだぞっ! あ、泉蝶ちゃんはね、にじゅっ――」
その瞬間、高速で志閃の首が後ろから絞められた。泉蝶の細いが筋肉質な腕が、志閃の首をがっちりときめてしまっている。
「ぜ、ぜんじょうぢゃん……」
志閃が苦しげに泉蝶の顔を見上げた。
「許可なく女性の歳をばらそうとするなんて最低だわ」
泉蝶の冷たく目を細めた顔は、完全に志閃をさげすんでいた。顔の周りに流れる長い黒髪が、さらに威圧感を醸している。燭台の赤みを帯びた光に照らされ陰影のついた顔は、志閃の位置から見上げると鬼神のようだった。
「いいじゃん。体重ばらぞうとじたわげじゃないんだじ」
「嫌なものは嫌なのよ」
まわりに若さを保った仙術使いが多くいるなかで、気を扱えない泉蝶は年相応の外見をしている。それが嫌だった。
数年後、自分だけが老けて、他の人々は以前の姿のままでいるかもしれないと考えると――。年齢はあまり意識したくない。
「苦し……」
志閃は首を左右に振ってもがく。しかし、泉蝶は決して力を緩めなかった。
しばらくして志閃は抵抗をやめたが、気を失ったわけではない。
「あぁ~、でもこれいいかも……」
少しつぶれた声でそうつぶやく。苦しそうな赤い顔をしつつも、その表情はどこか幸せそうだ。
「泉蝶ちゃんのおっきな胸が頭にぃ~」
「なっ!?」
ここで泉蝶は、志閃の首を絞めるために彼の後頭部を自分の胸に押し付けていたことに気付いた。しかも、志閃が抵抗したために、襟元が少し乱れている。
それに気付くと、素肌に触れる志閃の硬い癖毛が鮮明に感じられた。
「やわらかぁ~」
うっとりと頭を動かし、その感触を楽しもうとする志閃。
「死になさい……ッ!!」
気づいたら、泉蝶はその頭を掴み、一番近くにあった壁に力いっぱい叩きつけていた。
「きゃっ!」
水蓮は反射的に膝を抱いて、身を小さくした。
目の前には壁に顔面を押しつけられた志閃がいる。ぱらぱらと日干し煉瓦の破片が落ちてきた。
これは……、生きているのだろうか……。
そう思っていた水蓮の前で、壁についていた志閃の指がわずかに動いた。
「せん、蝶ちゃん……」
唸るように言いながら、ゆっくりと壁から顔を離す。しかし、立ち上がることはできずに、水蓮の足もとにあおむけに寝転がった。いつ取り出したのか、片手に持っていた札は何枚あったのかもわからないほどボロボロになっている。
「あれ、札にダメージ肩代わりさせなかったら、死んでたよ俺」




