三章 [9]
「では、飛露の好きな時にどうぞ」
普通は試験を受ける側の都合に合わせるのだが、今回はそうしなかった。
王紀の言葉に飛露が無造作に札を落とす。無言でだ。
「……えっ?」
「水蓮ちゃん早く気ぃ込めて!」
志閃が戸惑う水蓮の言葉を遮って叫ぶ。
「え、あ。はいっ!」
水蓮は慌てて手のひらに落とされた札に気を流し込んだ。
札の四隅が少し崩れたかと思うと、次の瞬間には一気に札の残りが縮れ、砕け散る。
「おぉ、やるぅ」
嬉しそうな声を上げたのは志閃だけ。
「ギリギリ五秒以内……、ですかね」
王紀はいつもの表情で冷静に時間を告げ、飛露は絞め殺さんばかりの形相で水蓮を睨みつけた。泉蝶と赤覇は硬い表情でほっと息をつく水蓮を見つめている。
「これで水蓮ちゃんも正式に禁軍所属だよっ!」
「おめでとう」と水蓮の手をとって、ぶんぶん振る志閃。
「ありがとうございます」
水蓮はそうほほえみつつも、志閃以外の将軍の歓迎以外の感情を察し、居心地悪そうにした。特に、飛露の嫌悪はあからさまだ。
「何か――?」
それに続く、「ありましたか」という言葉は、飛露のひとにらみで飲み込んだ。
「大丈夫よ」
泉蝶が怖がる水蓮を案じて、笑みを浮かべた。彼女自身も、水蓮の正体に不安があるため、その笑みは少しぎこちなかったが……。
「戦でみんな少し気がたってるだけから」
しかし、自分ではなかなかうまくごまかせたと思う。
「そうですか」
水蓮も素直にうなずいている。
泉蝶はもう一度、さきほどより自然にほほえんでうなずき返した。
「これで、試験は終了です」
今さらのような気もするが、王紀が思い出したように試験終了を告げる。
「水蓮さんは、禁軍でやっていけるだけの能力を持っていることが証明されました。体力的にやっていけるかどうかまでは、わかりませんが……」
最後に付け足した言葉は王紀なりの皮肉だったが、そのきれいな笑みのためにただ水蓮を心配しているように聞こえた。
「王紀、腹黒っ」
「志閃、聞こえていますよ?」
志閃がつぶやいたが、王紀の笑顔の裏からにじみ出る殺気に、それ以降の言葉は飲み込まざるを得なくなった。
この部屋に入ってからほとんど黙っている赤覇は、悲しんでいるような怒っているような微妙な表情で水蓮の顔を盗み見ている。
「お疲れさまでした」
「……ありがとうございます」
水蓮が王紀に向けた笑みは、引きつっていた。彼がほほえみつつも水蓮を歓迎していないことを察してしまったのだろう。
「また、後日改めて配属される部隊が決まったら、お知らせに来ますね」
「わかり、ました」




