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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
二章 瞑目する蓮と仙術師
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二章 [11/13]

「我々の救世主なのか、敵なのか……。確信が持てるまで、禁軍で預かって泳がせて、様子を見ろと言うことですね」


悩ましげに言葉を切った帝に、王紀(おうき)は確認のために問いかけた。


「うむ……。うぬらならば、うまくやれると信じておる。なんといっても、精鋭ぞろいの禁軍で将軍を務めておるのだからな。こんな時期に申し訳ないが、頼まれてくれないだろうか」


 そう言われては、「(はい)」と言うしかない。二人は深くこうべを垂れて、謁見の間を辞した。


  * * *


「ふぅ」


 謁見の間を辞して、泉蝶(せんちょう)が息をつく。


「帝は神仙のお告げを得られていたのね」


 隣を歩く王紀にそう話しかけた。


「そうですね。しかし、それを信じきって、水蓮の言うがままにするつもりもないようでしたから、ひとまずは安心です。まぁ、難題を押し付けられたことに変わりはありませんけどね」


「……あら? でも水蓮は(こう)の出身だと言ってなかったかしら」


 先ほどまでは帝と会う緊張で忘れていたが、それでは水蓮と帝の言い分が合わない。


「帝の夢がお告げで、それが水蓮のことを指しているのなら、水蓮は嘘をついているのでしょうね」


「飛露は水蓮の言葉を『嘘』と言っていたわね」


 それならば、水蓮は本当に崑崙(こんろん)から来た救世主なのだろうか。泉蝶は無意識に腰に()いた剣の留め具をもてあそんでいる。


「嘘をつくとき、多くの人は不安になります。その不安によって気がわずかですが揺らぐのです。飛露はその揺らぎを感じ取ったようですね。僕は水蓮さんの身の上を聞いた後、飛露にどこが嘘でどこが本当に感じられたか尋ねたのですが、そこまでは分からなかったと言っていました。うまく嘘と本当を織り交ぜて話していたようです。僕は水蓮さんのことを非常に胡散臭く感じています」


 例えば、「廣出身」は本当で、「廣から逃げてきた」が嘘だった場合、水蓮が廣の間者である可能性が高まる。


「どこが嘘でどこが本当かによって、水蓮の立場が百八十度変わるわけね。……でも、水蓮が陛下の言う崑崙から来た救世主なら嘘をつく必要なんてあったのかしら?」


「そこです」


 泉蝶の疑問に王紀も強い語気で賛同した。


「そもそも、術師と言うのはめったに嘘をつきません。嘘を一つつくことで生じる気の乱れは小さいものですが、その小さな乱れでも術師にとって命取りになることがあります。高潔な神仙ならなおさらです」


 大げさな気もするが、仙術の心得がある王紀が言うのだから、そんな場合もあるのだろう。泉蝶はうなずいて先を促した。


「水蓮は嘘をつきますし、気の量もさほど多くは感じません。あまり、彼女のことは信頼できないかもしれませんね。とりあえず、水蓮に陛下の見た夢の話は内緒です。水蓮が間者だった場合、悪用されてしまいます」


「わかってるわ」


 二人は水蓮をこれからどう扱うか意見を交わしながら、対岸にある禁軍の拠点へ戻るべく、橋を渡る。謁見の間や帝の私的空間に向かうにふさわしい立派な石橋だ。大路のように広く、欄干には浮彫や彫像で神仙が住むとされる天の国――崑崙(こんろん)を模してあった。


 雲が細くたなびく間を、美しい顔と細くしなやかな肢体を持つ神仙が舞い踊る。

 そのわきには、杖を片手に凛として遠方を見据える神、瞑想する仙人――。この橋に作られた神仙の世界は、華やかで高潔で生気に満ちている。


 これを見ているだけで、さざなみだっていた心が少しずつ落ち着いていくようだった。

 落ち着くだけで、問題は何も解決されていないのだが……。


「王紀将軍! 泉蝶将軍!」


 泉蝶たちが橋を半ばまで渡ったころ、背後から呼ばれて、二人は同時に振り返った。

 小走りでやってくるのは、軽装の甲冑をまとった中年の男性だ。甲冑には装飾のように呪文が描かれている。その顔にも見覚えがある。禁軍の仙術部隊に属しているはずだ。


「どうかしましたか?」


 王紀が尋ねる。


白伝(はくでん)様がお伝えしたいことがあるので、少しお待ちいただけないかと――」


 白伝とは帝の後ろにいた占い師の名だ。

 泉蝶と王紀は顔を見合わせた。そんなことをしなくても、どうするかはすでに決まっていたのだが……。


「わかりました」


 王紀が言い、泉蝶もうなずいた。

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