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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
二章 瞑目する蓮と仙術師
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二章 [9/13]

「怖いですよ、泉蝶(せんちょう)


 王紀(おうき)がそう注意した。確かに今の泉蝶は眉間に薄くしわを寄せ目つきが鋭く、口調も厳しい。


「陛下に真意を問いたい気持ちはわかりますけどね」


 一方の王紀はすでに穏やかな笑みと口調を取り戻している。


「彼は、陛下の書いた書簡を張文官から預かっただけで、直接陛下にお会いしたわけではありませんよ」


「それは、そうだけど……」


 なにかが大きく変わりそうな予感に、どうも気持ちが急いてしまう。


「我々は禁軍将軍ですよ。陛下の毎日の予定は把握できています」


 一方の王紀は冷静に、朝他の将軍たちとも確認した帝の予定表を引っ張り出してみせた。


「今日の陛下は朝に軍部の高官と謁見。午後からは桃源の勝利を祈る祈祷を行われる予定です」


「今から謁見の間に行けば、ちょうど謁見後の陛下に会えるわね。王紀、謁見の間に行くわよ」


 泉蝶はあいかわらずの深刻な厳しい表情で王紀を見た。その足はすでに戸口へ向いている。


「そう言うと思いましたよ」


 笑みを崩さず、それに従う王紀。彼の動作は素早い。こうなることが分かっていたのだろう。


「あなたは持ち場に戻っていいですよ。ありがとうございました」と戸の前を空けつつ、所在無げに立っている部下に声をかけるのも忘れない。


「あ、はい! ありがとうございます」


 彼は嬉しそうに礼をしたが、頭を上げた時にはすでに泉蝶もそれを追いかけた王紀もいなくなっていた。


  * * *


「泉蝶、謁見の申し込みはしなくていいんですか?」


 泉蝶と並んで歩きながら、王紀が問いかける。


「入れるんだから、問題ないわ」


 速足で歩きながら答える泉蝶。


「あなたは、男性以上に勇ましいですね」


 王紀は苦笑を浮かべている。


 本来帝に謁見するには、多くの手順を踏む必要があるが、彼らはそのほとんどをすっ飛ばした。

 本殿や後宮の警護は、主に禁軍が行っている。衛兵たちは、一言二言言葉を交わしただけで簡単に上司を通してくれるのだ。


 ただし、謁見の間のある本殿に入るための手続きだけは厳しい。


飛露(とびつゆ)がいなくてよかったです」


 普通の人がやるよりは簡単な、しかしまどろっこしい手続きをしながら王紀がそう漏らした。飛露ならば、いち早く帝の本意を知るために強行突破しかねない。


 泉蝶は王紀が手続きをする間、木陰から本殿の前に広がる庭を見ていた。

 大きな行事の際、多くの官吏が集まることができるように設計された庭はとても広い。今は、二十人ほどの武官がそこに散らばり、警護を行っている。彼らは泉蝶たちを見て小さく敬礼した。


 庭の端の方では、十羽ほどの野鳥が地面をくちばしでつついて、地中の虫を探している。くすんだ緑の羽根をした手のひらに乗るほどの小さな鳥だ。このあたりではよく見かける野鳥で、水蓮が病室で話していたのも同じ種類の鳥だった。

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