二章 [6/13]
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翌日――。
朝食を終えた水蓮の病室にやってきたのは、泉蝶ではなかった。
この日の病室からは衣擦れの音ひとつ聞こえない。彼はその静けさを破らないよう注意しながら、部屋の扉を開けた。
入室の許可は取らなかった。室内の気がひどく張りつめているのを感じたから。
と言っても、嫌な感じの張りつめ方ではない。限りなく落ち着いていて、澄んでいる。彼女の気が水属性ということもあり、深い水底に迷い込んだような印象を受けた。
水蓮は壁に背を預け、両手足を投げ出し、だらしなく座っている。いや、体を弛緩させ、くつろいだ体勢をしているというべきか。
水蓮は瞑想していた。
人の入ってくる気配は感じただろうが、瞑想を解こうとはしない。
彼から流れてくる木属性の温かな気には覚えがあった。志閃の気だ。彼ならば、黙っていてもこの間のように明るく話しかけてくると予想したので、声をかけられたら瞑想を解こうと頭の隅で考えていたのだ。
しかし、志閃は瞑想をする水蓮の邪魔をしないように、静かに近づき隣にあぐらをかいて座った。その距離が少し体を傾けたら触れあえそうなほど近いのが、短い付き合いながらも彼らしいと思えて、水蓮は集中を乱さない程度に淡くほほえむ。
水蓮の手のこうに大きな手のひらが触れた。志閃の手はその気と同様に温かい。
じわりと彼の気が触れた個所を通して流れ込んでくる。水蓮の気も志閃へと流れ出していった。
お互いの気がお互いの体内を循環して、また自分へと戻ってくる。
「房中術……?」
しばらくそうやってお互いの気を感じた後、水蓮は目を開けながらつぶやいた。
「おっ? 知ってた? 水蓮ちゃん結構詳しいところまで仙術やってたんじゃないのー?」
志閃も先ほどまでの静かさとは打って変わって、いつもの明るい声で言う。
「水蓮ちゃんってちょっと不思議だよね。廣で育ったって言う割には、仙術のことよく知ってる感じがする」
興味津々といった感じで目を輝かせる志閃は、非常に好意的に見える。




