二章 [5/13]
「だって、禁軍の人たちは私に良くしてくれました。谷川で助けてくれたのはもちろん、手当てをしてくれたり、こうやって話し相手になってくれたり――。私は少しでも、泉蝶さんや他の将軍、お医者さんや秋夕さんのお役にたちたいんです!」
少し恥ずかしがるようにうつむいて、しかしはっきりとした口調で水蓮は答える。肩を少し過ぎるくらいの長い黒髪が表情を覆い隠してしまっているが、きっと真剣な顔をしているのだろう。
泉蝶はさっき彼女を警戒した自分を内心で罵倒した。
「そう言ってくれると、うれしいわ」
「それに……、私はまだここから出たことないから、桃源について何も知らないし。正直、ここから出るのが少し怖いんです。禁軍なら皆やさしいし、安全ってわかっているので」
「他の国とそれほど変わらないと思うけど……」
そう言う泉蝶自身は桃源を出たことがない。
しかし、神仙の膝元の国と言いつつも、人間の住む国であることには変わりないし、下の国から来た人々も桃源に適応している。違いはそれほどないはずだ。
「少なくとも、廣は怖い、……です」
うつむいたまま切れ切れに言う水蓮。彼女の言葉に泉蝶は、水蓮の身の上を思い出した。
「そうだったわね。悪かったわ」
泉蝶は再度内心で自分を罵倒した。
「でも、禁軍となるとむずかしいわね……」
禁軍のすべては帝が管理している。
「帝が認めてくれないと入れないし……。他の軍や研究機関なら、禁軍将軍として顔がきくから、大臣や他の軍の将軍や指揮官にお願いできるけど」
さすがに帝に直談判は恐れ多い。しかも、最近は戦で忙しく、それどころではないだろう。
「まぁ、みんなに言ってみるわ。書状を作って帝に提出すれば見てもらえるだろうし。もしかしたら、志閃が単身帝のところに乗り込んで行くかもしれないしね」
自分で言って、あの女好き癖毛なら本当にやりかねないと思ってしまう。
「よろしくお願いします!」
水蓮はそうほほえむ。やや浅慮ではあるが、素直でやさしそうな少女だ。
「飛露が猛反対する可能性もあるけど」
もとい、絶対に猛反対するだろう。彼は水蓮のすべてを怪しいと思っている。
「でも、明日の会議で必ず話すわ」




