二章 [4/13]
「よかったです」
水蓮は自分の傷ついた右腕をそっとなでる。
そこに包帯はなく、札が一枚貼ってあった。傷を引っ掻いたり、細菌が入ったりしないように仙術でぴったり密着しているものの、通気性は良く、たとえ濡れてしまったとしてもすぐに乾く術がかけてある。消毒作用も備えた軽傷用の札だ。
「今まで通り動かせるんですね」
水蓮は安心した顔のまま確認する。
「えぇ、もちろんよ」
「私、右利きなので本当に良かったです。最近、左手で食事とかいろいろやってたけど、不便で不便で――」
食事はすべて匙を使っていたが、それでもなかなかうまく扱えなかったらしい。ちょっと物を手に取る動作でさえ、未だに不自由すると言う。
「私、傷がよくなったら、できればこの禁軍に入れてもらえればいいなって思うんです」
水蓮の言葉に泉蝶ははっとした。
「もちろん、今は戦中で私みたいな敵国出身者は受け入れられないのかもしれませんけど……」
しかし、そのあとにつづいた言葉で肩の力を抜いた。自分の置かれている状況は理解しているようだ。
「でも、せっかく仙術が使えるんだから、それを生かしたいなって」
「軍に入らなくても、研究機関で新しい術や札の開発をするとか、戦い以外で使うこともできるわよ」
そう言ったのは、水蓮を禁軍に入れたくないからか、ただ単に彼女を案じたからか。言った泉蝶自身にもわからない。
「いいえ、できれば禁軍がいいです」
しかし水蓮はそう言って聞かない。口調は強く、確固とした意志を感じられた。
「他にも軍はあるわよ」
「はい。でも――」
この執着ぶり。最近消えかかっていた水蓮に対する警戒心が少し戻ってきた。
禁軍は帝に最も近い軍。彼女がもし敵ならば、禁軍という立場を利用して帝や国の根幹に危害を加えるかもしれない。
「どうしてそんなに禁軍にこだわるの?」
内心の警戒を押し隠して、泉蝶はやさしく尋ねた。




