二章 [2/13]
この日も、泉蝶は会議が終わるや否や足早に病室へと向かった。
いつも通り日干し煉瓦の壁にはめられた扉の前に立ち、入室の許可を得てから戸を開ける。
「泉蝶さん、おはようございます」
水蓮の浮かべる無邪気な笑顔も、だいぶ見慣れた。彼女はいつもそうやって泉蝶を迎えてくれるのだ。
「おはよう」
泉蝶も笑顔で返して、寝台近くのいすに腰かけた。
開け放たれた窓から、暖かい風が吹き込んでくる。窓にほど近い木の枝には、この辺りでよく見かけるくすんだ緑色の羽根をした小鳥が数羽とまっていた。
「あの鳥たちかわいいですよね」
泉蝶の視線を追った水蓮がそう言う。
確かに、まるっこい小鳥たちはころころしていてあいらしい。「リュリュ」「リョリョ」という高い鳴き声を聞くと、思わず笑みが漏れてしまう。
「話し相手にもなってくれるし」
「『話し相手』?」
「勝手に私が鳥さんたちに話しかけてるだけですけど……」
水蓮はそう言って、窓の近くに置かれた小皿を指差した。その上には少量の雑穀飯が乗っている。朝食に出されたもののようだ。
「あそこにおいたら、鳥さんたちが来てくれたんです。ね? 大丈夫だよ。おいでおいで」
そして、水蓮は窓の外に向かって手招きした。
それで鳥に通じるとは思わなかったが、一羽が慎重に窓のふちに飛び乗った。それにつられるように近くにいた鳥たちも、窓枠へと飛び移る。
「鳥を呼べるの?」
野鳥の警戒心は強い。意識して近づけばすぐに飛んで逃げてしまう。
呼びかけに応じて飼いならされたのではない野鳥がやってくるなど初めて見た。
「そうみたいです。昔からなぜか鳥には好かれて」
――仙術極めると仙人になれるんだけどー。仙人って、人とか動物とか植物とかと心を通わせれるらしいよ。いや、俺もそんな仙人に会ったことないから、よくはわかんないけどさー。でも、俺だってちょっと早く植物を成長させるくらいならできるよ。面倒臭いからやんないけどー。いや、本当だって。泉蝶ちゃん、なんでそんな変態見るような目で見てるわけ……?
泉蝶は昔、志閃が言っていたことを思い出した。後半の記憶は不要な気もするが……。
志閃の話はくだらないものが多いが、仙術部隊の将軍をしているだけあって仙術に関する知識は豊富だ。仙術知識だけは信頼できる。そう、仙術知識だけは。
もしかしたら、水蓮も志閃同様それなりに能力を持った術師なのかもしれない。




