一章 [18/21]
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しばらくして、赤覇と王紀が戻ってきた。
志閃まで病室に入ってきたため、泉蝶は顔をこわばらせたが、赤覇が壁際で彼を羽交い絞めにしてそれ以上水蓮に近づけないようにしている。
「くだらないことしゃべったら、問答無用で追い出すからな」
そのさまは、軍人とどこかの悪人のよう。相手を羽交い絞めにし、脅している赤覇の方が悪人に見えてしまうのが難点だが……。
「どうぞ」
王紀がきゅうすから色のついた水を注いで水蓮に渡した。
「医務室に寄ったら薬湯をいただけました」
淡い緑に染まる湯からは、ほんのり青臭いにおいがした。何種類もの薬草を混ぜ合わせて作っているのだろう。
水蓮は傷ついていない左手だけで湯呑を持ち、ゆっくりと湯をのどに流し込んだ。少し苦そうに顔をしかめたが、飲めないほどではなさそうだ。
時間をかけて数杯飲んで、水蓮はやっと湯呑を置いた。
「それでは、話していただけますか?」
王紀が赤く熟れた木苺の乗せられた皿を水蓮の脇に置きながら尋ねた。
「あ、はい」
水蓮は壁際の赤覇と志閃にちらりと目を向けながらうなずいた。
「あちらはお気になさらず」
王紀がさりげなく移動して、体で二人を見えなくする。
「はい」
水蓮はうなずいて、記憶をたどるように手元に視線を落とした。
「私、仙術を学びたくて桃源に来ました。その、物心ついた時から風を読んだり、いろいろ操ったりできて――。それで……」
「家族に気味悪がられて捨てられた?」
桃源に仙術を学びに来た他国出身者の中にはそういう経緯を持つ者も少なくないため、泉蝶はそう尋ねた。
水蓮は首を横に振った。
「それなら、まだよかったんです、けど……。廣の皇帝が桃源との戦を決めた時、仙術を扱える人を高値で雇うってお触れを出したんです。桃源の術者に対抗するために」
水蓮の声は小さく、はかなげだ。
「家族に売られたのね」
「正確には、売られる前に逃げ出したんですけど、同じです」
小さくうなずいたその顔から、感情は読み取れなかった。自分の現状を嘆くだけの余裕さえないのかもしれない。
「嘘だな……」
飛露が小さく唸るように言った。
「え?」
水蓮は目を丸くして飛露を見た。飛露は水蓮を睨み据えている。
「独り言だ。続けてみろ」




