一章 [17/21]
「飛露、彼女はまだ目覚めたばかりですよ。そんなに厳しく問い詰めなくても、待っていれば彼女から話してくれます。――ねっ? 水蓮さん」
王紀が穏やかな調子でとりなしたが、最後に念を押すように水蓮を見た彼の瞳は笑っていない。王紀の言葉の裏には、今でなくても良いが、いつか必ず話せという圧力があった。
彼のそばにいた泉蝶やいまだに扉の前に立つ赤覇にもその圧力は感じられたが、あえてたしなめようとはしない。飛露ほどあからさまではないものの、谷川に倒れていた他国の少女を警戒しているのだ。
しかも今は戦中。彼女が敵国出身である可能性も高い。この状態で同情はしても、信頼するなど不可能だ。
「あ……、はい」
王紀の態度におびえたのか、水蓮はわずかに首をすくめている。
「えっと、今お話ししましょうか……?」
「そうしてくれるのなら助かりますね」
王紀が笑みを深める。水蓮の従順な態度に満足したのか、先ほどよりもわずかに目つきがやさしい。
「わかりました」
水蓮は小さくうなずいた。
「……でも、その前にお水を一口いただけますか? のどが渇いてて――」
彼女の視線は、少し離れた卓に置かれた水差しを向いていた。泉蝶と王紀もそちらを見る。
「あ、あれは――」
志閃が先ほど使った水差しだ。
「…………」
王紀は黙っている。
志閃をバイキン扱いするわけではないが、彼が使った水差しを差し出すのは申し訳ない気がした。新しい水を取りに行こうにも、部屋の外からはいまだに志閃が弱々しく扉をたたく音が聞こえる。
「水をもらってくる」
志閃が部屋に入れないように扉の前に立っていた赤覇が、ため息交じりに言った。
「腹はすいてないか?」
「……少し――。でも、あまり欲しくないです」
「くだものくらいなら食えるな?」
「それは……。はい」
赤覇の大きな体と低い声を恐れてか、水蓮はまた布団の上で小さくなっている。
「じゃあ、行ってくる」
「僕もお手伝いしましょう」と王紀も扉の方へ向かう。
赤覇が扉を開けると、一瞬だけ志閃が見えた。
しかし水蓮と目が合い、うれしそうに顔を輝かせたのは束の間。すぐに赤覇に襟首を掴まれ見えなくなった。
「あの癖毛の人――」
水蓮が気の毒そうな顔をする。
「いいのよ。あいつはものすっごい女たらしだから。貞操を守りたかったら絶っ対近づいちゃだめよ」
泉蝶はセクハラ発言以外まだ何もされていないが、注意するに越したことはない。
「……気を付けます」
水蓮は怯えたようにうなずいた。




