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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
序章
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序章 [2/3]

「……まぁ、仕方ないわよね」


 泉蝶(せんちょう)は眉間をこすってしわを消そうとしながらひとりごちた。


 現在この国は東に広がる大国――(こう)と戦を行っている。今はまだ領地拡大を狙う廣国を国境付近で足止めしているが、いつ帝都まで攻め込まれるかわからない。

 禁軍は「帝とその周辺を守る軍」と位置付けられているので、まだ出軍命令は出ていないが、戦況が不利になればどうなるか容易に想像がついてしまう。模擬戦を行う聳孤(しょうこ)軍の部下たちも現在の状況がわかっているため、ひどく緊張しているようだった。


 どうにか部下たちを安心させたいが、無責任なことは言えない上に、泉蝶自身も戦で気がたっていた。こんな状態では何を言っても逆効果だろう。


 そうやって悶々としている間にも、時は経ち日が高くなる。

 陽光が背の低い草木(そうぼく)しか生えない岩肌を金緑に染めはじめたのを見て、泉蝶は模擬戦の終了を告げた。不安が彼らに伝わらないように堂々と。


 廣との戦が始まる前の兵士たちは、模擬戦が終わると穏やかに談笑しながら近くの帝都に戻っていた。しかし、現在は笑い声など全く聞こえない。

 ぼそぼそと言葉を交わし、足早に稽古場を去る聳孤(しょうこ)軍の部下たちをすべて見送り、泉蝶は小さくため息をついた。

 しかしすぐに自分の頬をぺちぺちと叩いて気合を入れなおす。一軍の長である自分が弱気になってはだめだ。泉蝶はキッと顔を上げると、帝都とは逆方向へと踵を返した。

 向かうのは近くを流れる渓流だ。急峻な山の多いこの桃源(とうげん)国では、いたるところから水が湧きだし深い谷を作っている。特に初夏の今は、高地や日陰に残っていた雪が融けはじめて水量が増す。

 泉蝶が目指した谷川も、暗緑色の帯の至るところが白くかきまぜられていた。


 鍛錬の後、ここの冷たい水で顔を洗うのが彼女の日課だった。特に、今日のような朝から汗ばむ日には、水に手を入れる瞬間が楽しみで仕方ない。戦中でも、まだ何かを楽しめるくらいの余裕が残っていることに少し安堵した。


 植物さえあまり生えない、急な岩肌の下。そこは彼女だけの空間だ。

 いつもならば――。


「…………?」


 しかし、この日は見慣れないものがあった。

 最初は薄汚れた布だと思った。上流には小さな村がある。そこから流されてきたのだろうと。


「違う……」


 しかし目を細めて、まだ日陰になった谷底を良く見ると、その布からは細い手足が出ているではないか。岩の陰に生えた苔だと思っていた黒いものも、髪の毛らしかった。

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