一章 [16/21]
「ひどい、赤覇。ひどい、赤覇! あ、分かったぞ! お前、水蓮ちゃんを独り占めする気だな。絶対そうだ。抜け駆けか」
志閃は扉を叩きながら叫び続けるが、その声はくぐもり、さきほどよりは数倍マシになった。少なくとも、無視できる範囲内だ。
「ごめんなさい」
泉蝶が志閃の非礼をわびた。
まだ戸惑っているようではあったが、少女はゆっくり首を横に振った。
「えっと、水蓮でいいのよね?」
今度はうなずく。「そう、です」と小さな声が聞こえた。
「腕のけが半月くらいでよくなるそうよ」
まずは彼女の怪我の状況を教えてやる。
「命に別状はないけど、血が減ってるからあまり動き回らずに、たくさん食べて体力をつけなさい」
「……はい」
少女――水蓮は了解の返事をしつつも、首をかしげている。
「あぁ、僕たちは怪しいものではありませんよ」
水蓮の様子に、王紀が相手を安心させるやさしい笑みを浮かべて言った。
「僕たちは桃源国禁軍の将軍です。こちらの泉蝶が谷川で倒れていたあなたを発見して、ここまで運んだのですよ」
目覚めたばかりの相手を気遣って、ゆっくりと身振り手振りを交えながら説明する。
「桃源……」
水蓮はつぶやいた。
「じゃあ、ちゃんと目的地につけたんだ……」
「つまり貴様は桃源の人間ではないということかっ!」
水蓮の独り言に、飛露が鋭く反応した。五人の将軍の中で最も帝への忠誠心の篤い彼だ。少女が他国の人間であると察し、警戒を強めたのだろう。
飛露の剣幕と鋭い瞳に驚いたのか、水蓮ははっとして自分の口に両手をあてた。
「あ……、はい」
少女はその姿勢のまま、小さな声で答える。




