一章 [15/21]
「おっ!」
志閃が声を上げる。
「テメェ!」
寝台に上がって少女に近づこうとする志閃の後ろ襟を赤覇は片手で掴んだ。もう片方の手は、志閃の腕を抑えている。
「うおうおうお! 目ぇ開けるともっとかわいい」
しかし、志閃は全く動じない。
「あなたは会った女の子みんなに『かわいい』って言うんでしょ」
いつもなら敏感に反応する女性――泉蝶の言葉も今は耳に届いていないようだ。
「俺、志閃。桃源国禁軍仙術部隊索冥軍将軍。禁軍ってわかる? 桃源の禁軍は帝直属の軍隊で、主に宮殿の警護とかやってんだけど――」
「うるさいわよ、志閃。目覚めたばかりのけが人に、あなたのにぎやかさは毒だわ」
先ほどの大声を反省して、小さい声の代わりに低くすごむ泉蝶。
「志閃は存在そのものが毒なのではないか」
冷たく言い放つ飛露。
「言えてますね」
やさしく笑みながらも、酷薄な言葉を吐く王紀。
志閃は同僚に何を言われても全く気にしなかった。
「で? で? 君名前は?」
赤覇に襟首を掴まれているために首が締まり、苦しそうな赤い顔をしながらも志閃は少女に話しかけるのをやめない。
少女はまだ状況が理解できないのか、くりくりした大きな目を何度かぱちぱちさせた。志閃の言葉ではないが、そのしぐさは確かに愛らしい。
少女は何度か瞬きをくり返し、志閃を見つめた後、「水……れ、ん」と切れ切れに答えた。
「すいれんちゃん? ねぇねぇ、字は?」
「流水蓮花」
「流れる水に蓮の花。水蓮ちゃんね。了解した。もう覚えたから絶対忘れないよ~ん」
正直、邪魔なくらい騒がしい。
「赤覇、お願いします」
王紀がにこやかに言うが、その目は冷ややかだ。
「任せとけ」と赤覇は彼の言いたいことを正確に察し、志閃を部屋の外へと引っ張り出した。
「あ! 赤覇、ひどい。まだ自己紹介が――。水蓮ちゃんのことも何も聞いてないし。ちょ、お前! 持ち上げるな。俺は女の子をお姫様抱っこするのは大好きだし、女の子にお姫様抱っこされるのも新鮮で頼もしくて最高だけど、男に抱きかかえられるのは――」
「うるせぇ。じゃあ、自分で退場しろ」
志閃も長身ではあったが、さらに背が高く大柄な赤覇にはかなわない。乱暴に抱えられ、廊下に放り出された。
体が床につくや否や、再び部屋の中に突入しようと飛び出してきたが、赤覇はその鼻先で非情にも扉を閉じた。扉に背を預け、開かないようにする徹底ぶりだ。




